地域保健ネットサロン

会員からの活動報告

 会員からの活動報告一覧 > 日吉和子(太成学院大学) ほか  2024.10.01

子どもの命を守る日本のユースクリニック ~フランスのユースクリニック調査を基に~

はじめに

日本の子どもを取り巻く社会状況は厳しい。例えば10代の死因の第1位は自殺でG7の中で自殺が1位だったのは日本だけとなっており (*1)、子どもの貧困は11.5%、母子家庭の子どもの貧困率は44.5%となっている(*2)。また2023年度の不登校児数は約29.9万人で、前年比の約22%増であった(*3)。更に日本の2022年度に対応した子ども虐待(以下、虐待)の通報件数は約21万件であり、増加の一途を辿っている(*4)。日本の虐待死亡の特徴として約半数が0歳児であり、その中でも0歳0日(*5)が最も多い。これは望まぬ妊娠をしたときのサポートや避妊が不十分と言える。
一方、先進諸外国には子ども・若者(以下、子ども)の健康を守るために国が設置するユースクリニックがある。これは子どもが健康に関して相談・治療が無料で受けられる場であるが、日本には未だない。そのため筆者らは2023年より尼崎市後援で子ども・若者が気軽に心と体の相談ができるユース保健室を開始し、次いで京都市内でも実施している。フランスのユースクリニックを参考にしながら日本の子どもの健康を守る地域づくりを行っているが、子どもの健康を守るための訪問看護ステーションの重要性が日本では大きいことが分かり、フランス視察と合わせて報告する。調査先としてフランスを選定した理由は、フランスの未成年10万人あたりの自殺率は日本の3分の1であり、さらに、1980年以降減少の一途である(*6) 。フランス政府はホームページに「自殺は免れることができるものである」と示し、予防を中心に据え全ての子ども・若者に届ける福祉政策を展開している。

先進諸外国のユースクリニック

WHOは、子どもの健康を守るための「Making health services adolescent friendly」のガイドブック(*7)を基にユースクリニックを推奨している。このガイドブックは子どもが健康と幸福を守るための必要なサービスをより簡単に受けられる理論的根拠を示しており、5つの視点がある【①行きやすい②受け入れやすい③誰でも行ける④適切である⑤効果的】。各国の疫学、社会、文化、経済の現実に合わせて調整されており、国際的に標準化されている。
ユースクリニックの発祥はスウェーデンであり、1970年から始まり(*8)、現在は全国300か所で設置(人口1048万人)されている。対象は13歳から25歳までの子ども・若者で、体、心、人間関係、アルコールと薬物、自尊心などについての情報提供と相談受付、また治療を行う。2008年にはホームページを設置し、子ども達が正しい知識を持てるように工夫がされた。その他の欧米諸国でもユースクリニックが設置されており、国によって対象年齢が若干違うものの、全ての国で子ども・若者を対象としており、地域に則した支援をしていることが特徴である。

フランスのユースクリニック

筆者らは、2023年よりフランスのユースクリニックの調査を行っている。フランスにおいてはユースクリニックの機関として2つの柱が挙げられる。1つめは精神的健康を目的とする「ティーンエイジャーの家(Maison des Adolescents)」と、2つめは若者のみを対象としてはいないものの性的健康を目的とする性的健康センター(centre de santé sexuelle)である。重視されている点は、公的予算で運営され、国家資格を得た専門職が対応しており、全国で同じサービスを実施している。これらのサービスは未成年が自ら選べ、親の同意を必要とせず、無料、匿名で利用できる。この取り組みは「若者の健康を守るのは公的機関の役割であり、子どもの権利を親次第にしない」というフランス国の姿勢の表れである。
フランスの精神的健康に関するティーンエイジャーの家は、1999年に1つの県で取り組みが行われたものを、子どもの権利が全国で守られていることを監視する公的独立機関である「子ども擁護機関(Défenseur des Enfants)」が2002年に大統領と議会に対し報告書の中で紹介し、2004年に政府が全国で実施するようプログラムを開始した。若者のケアニーズに応える機関が十分ではないという危機感からくるもので、親や若者と日々接する専門職の相談にも乗ることが期待された。ティーンエイジャーの家は、思春期特有の難しさについて若者を支え、若者を支える親や専門職を支え、若者特有の困難のエキスパートとしての専門職を備え教育機関や医療機関への研修を実施する場所として定められた。国のガイドラインで運用について定められている(*9)(*10)


  • (注1)
    心理ケア実施機関としては日本の半分の人口である6800万人のフランスに323か所の児童思春期心理医療センター(CMP)があり、パリ市では各区にある。児童精神科医、心理士が主にいて親子のケアのコーディネートを担う。学校から紹介されて通い始めることが多く、自殺予防や若者のケアニーズの対応としては第一線であるものの、今回の論文においては子どもの意思でサポートを選ぶ文脈であるため、対象からは外した。
  • (注2)
    ティーンエイジャーの家は必ずしも全ての県にはなく、アクセスが難しい若者もいる。それぞれの地域において、アルバイトや旅行などの情報が得られる若者情報センター(Point information jeune)やシェルターなどに心理士がいるのでそれらの機関で対応したり、ネットエデュケーターというエデュケーターはじめ資格のある専門職がネット上で相談に対応したりする方法に力を入れている地域もある。いずれにしても、若者自ら無料で選びとれる福祉を用意し、若者自身が話したい人を見つけられることが重要であると考えられている。それは、孤立することはリスクであると考えるからである。

視察では、パリに2か所あるティーンエイジャーの家のうちの1つであるMaison de Solenn(メゾン・ド・ソレン)を訪問した。パリ市立病院が運営している機関で、入院施設を併設している。いつでも子どもたちが来られるようにしており、予約の必要はない。「子どもが受診したいと思ったときが治療のタイミングである」という信念で実施されている。児童精神科医師、看護師、心理士、社会福祉士がおり、子どものケアに当たる。Maison de Solennは入院ベッドが12床あり、摂食障害、不登校等で入院ができる。心理療法として、絵画、料理、ラジオ発信などのブースが用意されていた。例えば調理場では摂食障害の子どもが食べられるように料理を一緒に作って一緒に食べるなどの治療を行っていた。Maison de Solennの受診後は、地元の日中病院(hôpital du jour)という、週に数回、終日学校の代わりに過ごせアクティビティを提案している場所(日本でいうメンタルクリニック)で継続受診を行っても良いことになっている。また、日中病院でも無料で子ども自身だけで受診(初診)ができる。

Maison de Solenn(メゾン・ド・ソレン)

一方、性をきっかけに総合的なケアにつなげる目的として性的健康センターがある。保健センターの下部組織であり、パリ市には各区に1か所以上、全24か所ある。1967年に避妊を許可する法律と同時に創立された(*11) 。背景として、1920年以降戦後の人口対策で避妊が禁止されていたことに対し、1968年の五月革命で自由と生殖に関する権利を求める新しい世代の動きがあったことによる。健康、社会面、そして教育面を担う機関という位置付けである。性的健康センターは設立当初より、医療的診察が受けられ、市営の機関と民間機関そして医療機関が運営主体であった。特に1956年に創設された民間団体プラニング・ファミリアル(Le Planning Familial)は立役者であり、1920年の中絶を禁止する法律に対し、女性が避妊や中絶を選択できるよう法改正を実現する運動を牽引した。(ホームページより)現在でも民間の性的健康センターや、全国の妊娠SOS電話も運営している。現在パリ市に性的健康センターは24か所あり、うち6か所がパリ市、8か所は市立病院、10か所がプラニング・ファミリアルの運営である。未成年であっても親の許可を必要とせず訪れ、無料で避妊を13種類から選択でき、薬による中絶を受けられる。公衆衛生法(Code de la santé publique)に基づき子どもの権利を尊重し、医師や医療従事者と相談しながら慎重に選択を行っている。

Le Planning Familial

パリ市副市長はメールでのインタビューに対し、滞在許可など問わず誰でも無料で匿名であっても受診できることについて、無条件であることが、安心して相談することにつながっていると答えている。健康保険から費用が出ており、年間8560万円かかっているものの、予防ケアにかかる費用は医療的にも経済的にも効率がいいと考えているという。(2023年10月13日回答)利用者が安全であると感じ、安心して、信頼して受け入れられていると感じられる環境であることが大切とされ、暴力を見つけ出せるよう配慮されている。

フランスの子どもを守る福祉政策

2007年以降、悪い扱いが起きてからでは子どもを守れたことにならないため、「心配」を基準に親子への包括的な支援をする予防中心の政策がとられている。子どもSOSの基準も虐待ではなく「心配」が基準となる。
また、児童保護の中心的な役割を担う専門職は国家資格のエデュケーターである。行政機関はケアのコーディネート、民間機関は専門特化したサービスの提供と役割分担しており、エデュケーターは児童相談所や裁判所や病院など公的機関でも働いているが、民間機関で継続的に家族を支える役割を担うことが多い。心配があるものの危険はない家族に対しては在宅教育支援という月1回から週1回親子に関わるサポートを全国で実施している。親がより良い子育て経験ができるようエデュケーターが親のストレスとなっている事柄を解決し、子どもの希望や悩みを聞く役割を果たす。支援に入っても、心配な状況が継続したり、親が協力的でなかったり、状況がよく分からない場合は子ども専門裁判所の子ども専門裁判官に判断を仰ぐ。子ども専門裁判官は裁判官資格を得た上で、児童保護施設や少年院などで2年間の養成課程を経ている児童保護と非行専門の裁判官である。子ども専門裁判官は子どもと話した上で支援や医療ケアの命令をする。
支援に入る場合はフランスでは虐待の発見は福祉の失敗で専門職が子どもを守れなかった結果と考えている。日本におけるこれまでの研究からも虐待を受けた子どもはその後の人生の多くが治療にあてられることが多く、自殺リスク、疾患罹患リスクが高くなることが分かっている(*12)。そのため、虐待以前での発見、予防に重点が置かれている。子どもの変化を見つけたら心配な情報伝達をし、エデュケーターが親子の支援に入る。
日本でこのシステムを導入できるかを考えたとき、現在家庭内に支援に入ることができる職種は限られており、訪問系の職種である。そして子どもの発達を学習しているのは唯一、看護系職員もしくは心理系職員であろう。今後の子どもを守る社会を構築するために、訪問看護師の役割は大きいと考え、次の実装報告と共に考察する。

日本でのユースクリニックと訪問看護の可能性

筆者らは、子どもがいつでも無料で心や体の悩みを相談できるように、2023年から「あまがさきユース保健室」を尼崎市後援で開始した。続いて京都市でも「京都ユースクリニック」を展開している(図1)。例えば尼崎市では、尼崎市ユース交流センターのあまぽーとで週に1回、3時間、ユース保健室を実施している。その他月に1回、今北団地にある一般社団法人一房の葡萄のぐれいぷはうすにてユース保健室を実施している。

図1 あまがさきユース保健室のLINE・インスタ宣伝画像より

この活動は保健師・看護師などの医療従事者が子どもからの相談を受け付け、必要であれば医療機関や支援先につなぐことである。相談は精神的・性的健康の両者が主な内容であるが精神的相談が圧倒的に多い。具体的内容は学校・家庭や進路の悩み、病院の診察、病院の選び方、病気(性病含む)について等があり、多岐にわたる内容である。そのため相談を受け付けるのは思春期の相談業務の経験がある保健師・養護教諭の資格のある者、もしくは大学教員の経験のある看護師が相応しいことが分かった。理由として看護師の資格のみでは多岐にわたる相談に対応できず、また相談技術も備わってないことがあり、保健師が中心となって活動することが望ましいであろう。

あまがさきユース保健室

また子どもたちの問題解決の重要項目として、子どもの家庭に介入できる職種が必要である。日本では1980年代から訪問看護があり、家庭内に他人が入るという日本では割と敬遠されがちの行為が受け入れられるようになった。特に2000年に介護保険法が施行されてからは、高齢者が住み慣れた自宅で過ごせるように認知が広がった。訪問看護は看護を目的として家庭内に入ることができ、既にシステムも整っている。加えて、2023年子ども基本法の施行、2024年の児童福祉法の改正により、市区町村レベルでの子どもたちへの支援が求められるようになった。地域の実情を把握しつつ家族介入ができる訪問看護の力を発揮できる状況となっていると考える。また、2021年に施行された医療的ケア児支援法や2024年の障害者総合支援法の改正によって、疾患や障害のある子どもの訪問看護の必要性が認知されつつある。子どもに疾患があり、家族関係に介入の必要がある場合は訪問看護を積極的に利用し、家族関係の再構築を行っていくことが日本の現状として適していると考える。今後の課題はフランスのように子どもの宿題を見ることや学校の付き添いができるように看護の幅(使用できる項目)を広げられることである。

結語

フランスの調査から、子どもを支援する場合は支援者が家庭内に入り、両親それぞれが「親をする」ことを支える支援が必要であることが分かった。また虐待通報の段階ではなく、子どもに変化が起こった段階で支援に入ることは重要である。
 日本においては既に訪問看護のシステムが出来上がっており、子どもに家族支援が必要で子どもに疾患名が付く場合は積極的に訪問看護を使用し、家族看護も行うことが望ましい。そのために看護師が子どもの世話ができるような看護の新たな項目の設置が必要と考える。また、「子どもの関心の実現」と「ウェルビーイングの保障」が子どもの健やかな成長に土台として必要であることもフランス視察から学ぶべき課題であった。

尼崎市職員の方とユース保健室メンバー
左から尼崎市こども青少年課浅田課長、日吉、近森(保健師)、尼崎市こども政策監能島さん


引用・参考文献

  1. 厚生労働省: 7海外の自殺の状況. 令和4年版自殺対策白書, 第1章 自殺の現状 :32, (2024) https://www.mhlw.go.jp/content/r4h-1-7.pdf(2024.5.24 access.).
  2. 厚生労働省: 6貧困率の状況. 2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況 , Ⅱ各種世帯の所得等の状況: 14(2023).https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf (2024.5.24 access.).
  3. 文部科学省: 令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について:65-69(2023)    https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_2.pdf  (2024.5.24 access.).
  4. こども家庭庁 :令和4年度児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値) : (2023) https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a176de99-390e-4065-a7fb-fe569ab2450c/12d7a89f/20230401_policies_jidougyakutai_19.pdf (2024.5.24 access.).
  5. こども家庭庁:こども虐待による死亡事例等の検証結果等について. こども家庭審議会児童虐待防止対策部会 児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会 第 19 次報告: 6(2023) https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/c36a12d5-fb29-481d-861c-a7fea559909d/6735b11d/20230935_councils_shingikai_gyakutai_boushihogojirei_19-houkoku_13.pdf (2024.5.24 access.).
  6. Global Change Data Lab: Reported suicide rates among young people. Our World in Data, Oxford of University: https://ourworldindata.org/grapher/suicide-rates-among-young-people-who-mdb (2024.5.19 access.)
  7. World Health Organization: Making health services adolescent friendly: (2012). https://www.who.int/publications/i/item/9789241503594 (2024.5.19 access.).
  8. Falk, G., Falk, L., Hanson, U., Milsom, I,: Young women requesting emergency contraception are, despite contraceptive counseling, a high risk group for new unintended pregnancies, Contraception 64: 23-27, 2001.
  9. フランス健康保健省: ティーンエイジャーの家ミッションノート. https://www.filsantejeunes.com/les-maisons-des-adolescents-historique-6709 (2024.5.19 access.).
  10. CAHIER DES CHARGES   DES MAISONS DES ADOLESCENTS: https://sante.gouv.fr/IMG/pdf/cahierdeschargesmda.pdf (2024.5.19 access.)
  11. Ledour Valérie: Les Centres de planification et d’éducation familiale : cinquante ans d’évolution, de la contraception des mères à la santé sexuelle des jeunes. Enfances & Psy, Éditions Érès : 66-67, 77,(2018).
  12. Petruccelli K, Davis J, Berman T. Adverse childhood experiences and associated health outcomes: A systematic review and meta-analysis. Child Abuse & Neglect 97, 2019.

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