【レポート】平成28年度保健師中央会議
7月21、22の両日、東京都千代田区の厚生労働省講堂で、「平成28年度保健師中央会議」が開かれた。21日の内容について一部を抜粋してレポートする。
発展的な健康づくり推進に向けて
正林督章氏(健康局健康課長)
正林氏は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、厚生労働省やスポーツ庁など複数の省庁の局長級を構成員とする受動喫煙対策強化検討チームが設置され、競技会会場や公共の場における受動喫煙防止対策を強化していることを報告した。
第三期の特定健診・特定保健指導のうち、特定健診については見直しの概要が固まっており、秋以降は特定健診が検討会のテーマとなる。正林氏は健康局として、腹囲が基準値以内で血圧、血糖などのリスクファクターがあるグループについて、特定保健指導または特定保健指導以外のアプローチでどう扱っていくか、1年をかけて議論していくと話した。
地域における保健活動の推進に向けて
島田陽子氏(健康局健康課保健指導室長)
島田氏は平成27年度保健師活動領域調査の「活動調査」の概要を説明した。活動調査は無作為に抽出された自治体における地域保健福祉活動に従事する全ての保健師(非常勤等を含む)を対象に3年ごとに実施される。それによれば、都道府県、保健所設置市・特別区、市町村のいずれにおいても、平成21年、24年、27年と年を追うごとに、常勤保健師1人当たりの保健福祉事業の1か月平均活動時間数は減少傾向にあった。
子育て世代包括支援センターについて
高山 啓氏(雇用均等・児童家庭局母子保健課課長補佐)
子育て世代包括支援センターは、今年5月に改正された母子保健法の中で「母子健康包括支援センター」として位置付けられ、保健師、ソーシャルワーカーなどを配置することになった。コーディネーターが各機関との連携、情報の共有を図り、妊娠期から子育て期にわたる総合的な相談、支援を行うとともに、全ての妊産婦の状況を継続的に把握し、要支援者には支援プランを作成することを目指す。高山氏は「平成32年度末までに支援センターの全国展開したい」と話した。
保健師に係る研修のあり方等に関する検討会最終とりまとめについて
島田陽子氏
今年3月に公表された「保健師に係る研修のあり方等に関する検討会」の最終とりまとめに記載された、キャリアラダーでは保健師の能力を専門的能力と管理職保健師の能力の二つに分け、キャリアレベルをA1~A5(専門的能力)、B1~B4(管理職保健師に向けた能力)の段階で示している。従来の初任期・中堅期・管理期という区分けにしなかった理由について島田氏は「保健師の卒前教育の多様化や医療機関での勤務経験など、自治体に入職するまでにさまざまなキャリアを積む人が増え、一概に勤務年数で区分けするのが現状に合わないという声が多かった」と説明。標準的なキャリアラダーはそのまま使うのではなく、「自治体ごとに保健師に求められる能力を整理した上で、研修体制の作成や見直しなどに活用してほしい」と求めた。
当日は、今年6月23日から7月4日にかけて実施された、都道府県の管内市区町村保健師の人材育成実施状況に関する調査結果も報告された。
対談
「保健師に係る研修のあり方等に関する検討会」の座長を務めた村嶋幸代氏(大分県立看護科学大学学長)と同検討会の構成員だった座間康氏(富士フイルム株式会社人事部長)が登壇。
座間氏はキャリアパスの作成について「画一的なものを描いてしまうのではなく、現実の当人の強みや弱み、成長度合いに合わせながら目指すべき姿を現場のレベルで話し合うことが鍵になる」と話した。村嶋氏は「(人材育成とは)一人一人の生き様が問われることでもある。保健師としてどう生きていきたいかを共有しながら、自分なりの目標を作っていく手立てとしてほしい」と保健師たちにエールを送った。
事例発表
濵田京子氏(宮崎県高鍋保健所健康づくり課課長)は「宮崎県における現任教育」について報告。県医療薬務課、保健所、県看護協会、県立看護大学が協働して行った「保健師の力育成事業」により、実践力の向上、職場環境の変化、保健所と市町村のつながりの深まり――などの効果があったと話した。
嘉代佐知子氏(横浜市健康福祉局地域福祉保健部福祉保健課人材育成担当課長)は「横浜市における保健師の人材育成について」をテーマに講演。同市では、新人から10年目ぐらいまでを対象としたキャリアラダー、今後の能力開発の方向性を考えるためのキャリア分析自己評価表などを作成した。嘉代氏は「キャリアラダーと自己評価表を合わせ、自分の能力を客観的に見ることができる」と話した。
清田啓子氏(北九州市保健福祉局総務部総務課課長)は「福岡県北九州市の取り組み 保健師の人材育成」をテーマに講演した。同市では、保健師職能としてのスキルに加え、政策策定ができるよう自治体の幹部職となるキャリア形成が必要との認識を大切にしているという。平成22年には「保健師のあり方」をまとめ、27年にはこれを改定。この作業の中で見えてきた課題をもとに、キャリアパスを作成した。清田氏は「キャリアパスのモデルを参考にして保健師一人一人が自分のキャリアパスを意識して描くことが大切」と話した。
浅井澄代氏(埼玉県保健医療部保健医療政策課研修・国際協力・免許担当副課長)は埼玉県の現任教育の事例を発表した。埼玉県では保健所単位で管内市町村の人材育成をする体制を敷き、県がプログラムに基づいて階層別研修を実施。また26年度からは県内看護系大学との連携推進会議を始めているほか、キャリアラダーとキャリアパスも作成している。浅井氏は「キャリアラダーと研修体制を組み合わせ評価するなど、新しい体制を考えていくことが今後の課題」と話した。
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