デジタル共生社会実現会議 ICTアクセシビリティ確保部会(第2回)
1月11日、「ICTアクセシビリティ確保部会」(部会長=石川准静岡県立大学国際関係学部国際関係学科教授)の2回目の会合が開かれた。同部会は総務省・厚生労働省共催の「デジタル活用共生社会実現会議」の下に設置され、障害者などの日常生活に役立つIoT(Internet of Things、モノのインターネット)やAIの先端技術の開発・実証などについて検討を進めている。
この日は、初回会合の意見を踏まえ事務局が部会の検討事項を整理して提示したほか、東京大学先端科学技術センター、石川県加賀市、日本支援技術協会が検討事項と関係のあるプレゼンテーションを行った。
部会の検討事項は4つ。ICTの発展により5年後、10年後に「家」「移動」「仕事」「エンタメ」の各シーンで何が実現するのか(①未来イメージの提示)、それに向けた障害者個々人の状態・生活状況に関するデータ収集と共有化の仕組みをどうするか(②エビデンスベースの当事者参加型の開発スキーム)、ICTを活用した障害者の就労機会の多様化(③障害者等の就労支援)、情報およびコミュニケーションツールに関するアクセシビリティ確保のための制度整備(④情報アクセシビリティの確保)――で、②についてはその運営にあたるコンソーシアムの在り方も検討課題としている。
この日、事務局が提示したコンソーシアムのイメージでは、構成メンバーに企業や介護福祉関係団体などを想定し、障害者関連データの匿名化と提供、ICT機器・サービスの技術評価、普及活動、就労支援などに加え、「障害者関連情報ポータル」の開発・運営を行うとしている。「障害者関連情報ポータル」は、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校からの情報のほか、IoT・AI等から得られた障害者個々人の情報が、自治体・障害関連団体・NPOなどを通じて集まることを想定しているという。
プレゼンテーションでは、検討事項の「①未来イメージの提示」の就労、エンタメ部分に関係して、東京大学先端科学技術センターのスタッフがVR(バーチャルリアリティ)、AI、ロボットの老年学分野での活用例を報告した。
同センターの檜山敦氏(講師)は「少数の若者が大勢の高齢者を支えている人口ピラミッドを逆転させ、65歳以上の元気高齢者を社会の活力とすることで、安定したピラミッドになる」と話し、具体的な展開例として高齢者の就労支援のプラットフォーム「GBER」(GATHERING BRISK ELDERLY IN THE REGION、ジーバー、「地域の元気高齢者を集める」の意)を紹介した。地域の元気高齢者と地域の仕事・ボランティア・サークル活動の求人をマッチングさせるもので、高齢者が地域活動に参加したい予定を発信したり(カレンダー)、生活圏内の地域活動を検索したり(マップ)、関心のある事柄を簡単な質疑応答形式で入力できる(Q&A)。2016年4月から千葉県柏市で運用し、2年半で延べ2,364人の社会参加を得たという。
檜山氏は情報通信メディアを活用した遠隔社会参加の取り組みも紹介した。スカイプを使った遠隔講義では、聴衆が見ている画面上で講師の視線が聴衆に向いているように見えず、臨場感が伝わらないなどの難点がある。そこで檜山氏の研究グループは、聴衆を映した講師側のディスプレイに向かう講師の視線の動きが、そのまま聴衆側の画面に伝わる(講師の視線の先の光景が画面に映し出される)ように工夫することで、遠隔地との心的距離を縮めることに成功したという。檜山氏は「AIは人の仕事を奪うものではなく、人と仕事、社会を結びつけるもの」と話した。
同センターの登嶋健太氏は、Virtual Reality Traveling(仮想現実旅行)の試みを紹介した。360度カメラで旅行地を撮影した映像を被介護者である高齢者がVR装置を付けて楽しむことができる。カメラ撮影をするのは元気高齢者で、被介護者の需要とマッチングさせて旅行先を決める。試行を重ねるうちに旅行地だけでなく、元気高齢者の地元地域やプライベートスポットの紹介などに発展しているという。
石川県加賀市と日本支援技術協会は、検討事項の「②エビデンスベースの当事者参加型の開発スキーム」に関係するプレゼンテーションを行った。
石川県加賀市は、障害者情報の一元化に向けた取り組みとして、同市の「スマートインクルージョン事業」を紹介した。同事業はAIやIoTなどの最新技術を活用し障害の有無を問わず全ての人が安心安全に暮らし、社会参画できる未来を目指すもので、今年度は全体計画を策定し、障害者情報一元化に向けてシステムの検討や障害者などへのヒアリングを進めている。2019年度は障害者の見守りシステム(スマートホーム)、障害者の移動の便利を図るシステム(スマートモビリティ)、テレワーク等の障害者のサテライトオフィス(サテライトワーク)を予定しているという。
日本支援技術協会の取り組みは、コンソーシアムの在り方の一例して報告された。同協会は障害者・高齢者がより豊かで自立した生活を営めるよう、情報支援技術の普及・人材育成に取り組んでいる。主な事業内容は、①研修会や展示会開催等による情報支援技術普及と教育事業②情報通信機器および情報通信サービスの調査研究事業③情報支援技術製品の開発と開発協力事業――の3つ。事業実績の一つとして、特別支援教育におけるICT機器の利活用を学ぶ宿泊型研修会「夏合宿 ICT虎の穴」の取り組みを紹介した。これは特別支援学校教員を対象として毎年40名規模で開催されており、2016年の開催地は北海道、17年は福岡、18年は愛知だった。その他の実績としては、全国の高等専門学校と連携した研究開発、人材育成事業なども紹介した。19年度は高等専門学校初のAT危機・アプリの市販化協力、障害者雇用のニーズ調査、eSportsへの障害者参加支援の検討――などを予定しているという。
意見交換では、石川准部会長が「IT機器開発、利活用というのは、障害特性に最適化した専用機器・ソフトを想定しているのか、スマートフォンのような一般的なものを想定しているのか」と事務局に確認した。これに対して事務局は、「両方を想定しており、双方向から考えていきたい」と答えた。石川氏は「専用機器は市場原理に乗らず高価なものとなり、大きな開発投資もしにくいため動作検証なども不十分になりやすい。専用機器であるメリットはあるが、汎用性のある機器とは開発の方法論が全く違うので、次回以降も引き続き議論したい」と話した。
今後、同部会は1月16日に第3回、同21日に第4回と続けて開催される。