「住民のニーズ把握から政策形成までできる保健師の強み」
熊谷多美子さん
熊谷多美子さんは、1980(昭和55)年に入職してから今日まで、滝沢市(入職時は滝沢村)の保健師として活動してきました。保健師の持つさまざまな能力の中で、特に政策形成に的を絞って保健師の魅力について語っていただきました。
2016-08-12
住民参加型・目的指向型の計画策定
保健師としての三十数年間を振り返ってみると、ターニングポイントは保健計画の策定に関わったことであった。1996(平成7)年度の母子保健計画の策定を手掛けたころ、計画づくりといえば業者委託が主流だった。しかし、アンケートから始める既存のスタイルに「本当に必要な情報が見えるのか」と疑問を感じた。そこで、県・保健所主催の計画策定に係る研修に参加して住民参加型・目的指向型の計画策定の必要性を学び、手探りの状態で計画策定を始めた。
住民参加型・目的指向型の計画策定では、集めたニーズを項目ごとにまとめ、それを施策目標として柱立てし、施策を実現する具体的目標・条件を整理する。次に目標を評価する指標を設定し、その指標を収集して現状把握を行い、今後の方向性や施策の方向として文章にまとめ、計画に載せていく。しかし当時は「住民の声を聴く」ことと「要望・苦情を聴く」ことの区別さえ、職員に理解されていなかった。そこで、職員間で村の「あるべき姿」を描き、夢を語るグループインタビューを実施、実際の計画策定のプロセスを体験してもらうことから理解を広げていった。
保健師の活動が庁内の先駆的取り組みに
試行錯誤しながら出来上がった母子保健計画(第1次すこやか親子たきざわ)は、全国の優秀な母子保健計画に選定された。その後、高齢者保健福祉計画・地域保健計画にも同様の計画策定プロセスを用いることで、ブラッシュアップを図るとともに、滝沢オリジナルの計画策定プロセスの普遍性が証明された。
折しも、1999(平成11)年度より行政システム転換の議論が盛んになり、当市で目指す「分権化志向・顧客志向・市場志向・成果志向・協働志向」が、保健計画策定での「ヘルスプロモーション・住民協働・目的設定型・庁内のネットワーク・評価の重視・エンパワーメント」と方向性が合致した。保健師の活動が庁内で先駆的取り組みと認められ、行政経営品質向上活動や経営改善、新総合計画策定等への関与等、庁内活動に保健師が多数関わることになった。
一方、住民参加型・目的指向型の計画策定は、策定に関わった住民が、地域のリーダー的存在となって活躍し、関係機関やスタッフ間の目指す方向性の共有化が図られ、各々の自主的・積極的行動と思考へとつながっていった。また、解決策(事業)や手法が柔軟になり、事業や政策が国から降りてくる前に取り組みを始め、先駆的事業として補助金を活用することもできた。特に介護予防事業の立ち上げ時には大いに役立った。
保健師の強みと立ち位置
保健師は住民の生の声を最も近くで聞き、ニーズを把握し施策に反映させることができる。施策を具体的な実行に移す企画力があり、補助金や予算を獲得する力、連携し行動する力がある。加えて予防的視点から事業の評価もできる。こうしたダイナミックな活動ができるのが保健師の強みである。同時に醍醐味でもあると感じている。
2015(平成27)年4月に第1次滝沢市総合計画が施行され、「誰もが幸福を実感できる活力に満ちた地域」を将来像として取り組みを進めている。計画策定の際のアンケートでは「幸福感を判断する項目」として最も多かったのが「心身の健康」であった。総合計画では健康を一つの柱として取り組んでいくこととしている。私たちは自治体で働く行政職員であり保健師であることを自覚し、市が向かう方向の全体像の中から保健活動の位置付けを明確にしながら日々の活動を行っていく必要があると痛感している。
(滝沢市健康福祉部健康推進課課長兼保健師長)