藤本さんの講演旅行記

web版 講演旅行記-14 通算第32回
岩手県紫波町

2018-11-06

岩手県紫波(しわ)郡紫波町。9月末の紫波町が、今のところ本誌関連の今年度最後の講演である。まだ他に本誌とは関係のない講演はあるものの、本当に今年度は少ない。昨年度も少なくて、群馬、鹿児島、埼玉、茨城だけだったが、今年は群馬、三重、岩手の3回だけ。その前年度は東北から奄美大島までの広範囲での12講演だったのに比べると、2年かかってやっと半分を超えただけ。しかも去年は鹿児島市の2泊があったが、今年は3回とも日帰り。なので、余計に少なく感じるし、どれも「旅行記」として書ける程の観光はできていない。

さて、紫波に戻ろう。ご依頼があったのは今年の1月。盛岡市保健所のHさんからのご連絡だった。国保盛岡地区協議会での講演で、場所は盛岡の南に位置する紫波町という事であった。
講演先の都道府県で言うと地元の関東南部(埼玉・東京・千葉・神奈川)を除くと、岩手が今回6回目でトップ。うち4回は岩泉町だから、片寄りは大きいが。
次がなんとさらに遠方の鹿児島県で、5回。これは鹿児島市が1回、奄美大島に2度行っているが2度目に3講演しているために、行った回数とずれがある。同位に群馬県があるが、このうち4回は同じ沼田市。
3位は新潟県4回で、これは全部バラバラの地域。4位が和歌山県・茨城県の3回…と続く。
紫波町は、名前だけは知っていたが立ち寄った事はない。東北本線で盛岡から南下するのも、約40年ぶりの事なので、昔の記憶はほとんどないし、後述するように今回訪れる駅は、以前はなかった。
紫波の講演は日帰りという設定だから、すっかり馴染みになっている岩泉町に個人的に立ち寄って一泊し、仲良しになっている岩泉人たちと一杯やろうかな、と、思いつく。
で、何人かにメールで連絡をすると歓迎のお返事。ただ、翌日に「南部牛追い唄全国大会」があるという事がわかった。だから、宿が確保しにくそうだね、とお返事したら、すぐに、「仮予約しておいた」と!
まだ具体的な事は何も決めていない時点でのフライングには驚いたが、そのお気持ちはとても嬉しくて、大笑い。
が、結局、諸般の事情で日帰りせざるを得なくなり、愉快な岩泉人たちとの飲み会は流れ、ホテルはキャンセルしてもらう事になってしまった。

紫波の講演が決まった後、何気なく読んでいた本がある。「世界一へんな地図帳」―のり・たまみ著、(株)白夜書房、2008年―。すると、その本の「へんな地名」に、「紫波町」が出てきてビックリ。私は全く変だとは思っていなかったのだが、顔のシワ、とかそういった連想から取り上げられたようだ。ついでにエジプトにも「シワ」という地名があるとも。
調べたところでは、紫波の地名はかなり古くからあるようだ。「斯波」と書いて「しわ・しば」と読む足利家ゆかりの武家があり、その所領だった事が由来のようでもあるが、もっと古くから同音の神社があるようだ。「志和」を用いた「志和稲荷神社」、「志和八幡神社」など。それらは現存している。だが、これらよりもっと古いらしいのが「志賀理和気神社」。この名前から「志和」がとられたのかもしれない。地名や名字というのは由来を辿ると面白い。

9月28日、9:33大宮発のはやぶさ9号に乗車。盛岡着が11:21なので、大宮からたった1時間48分! この新幹線は東京駅始発9:08、上野9:14発だから、都内からでも2時間ちょっとという事だ。昔、新幹線がない頃の特急は、記憶では上野から盛岡まで6時間以上かかっていたと思う。3分の1の時間とは、あらためてビックリ。
約2年ぶりの盛岡駅。乗り継ぎまでに30分近く時間があるので駅構内を散策。とても懐かしく感じる。季節的に旬の各種キノコが売られていたが、どう調理したら良いのかわからないものが多い。そう言えば、何年か前には岩泉で採れた立派なマツタケを何本も頂いた事もあった。
盛岡から東北本線で南下して5駅が目的地。線路が見事にまっすぐだ。

線路の周囲は平らだが、それより遠くには右にも左にも山が見える。地図で確かめると、この辺では北上川の西側を鉄道が走っていて、並ぶような感じで線路の東に国道4号線、西に東北自動車道が通っている。おそらく、大昔、北上川が暴れてできた平地部分なのであろう。
18分で紫波中央駅に到着。

私は存じ上げないのだが、脇田愛二郎氏という芸術家の手によるモニュメントが駅から出た者を迎えてくれる。駅周辺は、比較的新しい住宅が沢山。

盛岡のベッドタウンとして、人気の土地らしい。
ちなみに、「○○中央」という駅は、割合新しいものが多いのをご存知か? 皆さんのお近くにも「○○中央駅」があったら、思い出してみて欲しい。昨年お呼び頂いた鹿児島にも、「鹿児島中央駅」があった。これは古くは「西鹿児島駅」という名称だったが、新幹線が通る事になって2004年に名前を変えたようだ。「鹿児島駅」もあるのだが、こちらには新幹線が通っていない。後からできたがメインの機能があったり、新しく開発された地域に後からできた駅などに、「○○中央」という駅名を付ける事が多いようだ。
「紫波中央駅」も、古くからある駅ではない。20年ほど前に開業したばかりだ。そして、そこを中心とした街づくりをしているのが、昨今の姿なのであろう。
駅を背にすると、こんな感じ。

「OGAL」という、ナゾの文字が見える。「オガール」と読む。これ、この辺一帯を「オガールエリア」と呼んだりしていて、そんな街づくりの一大プロジェクトの名前―という事でもあるらしい。
盛岡市保健所のHさんから連絡係を引き継いだ紫波町の保健師Oさんの説明は、以下。
「駅を出て右手奥にコンビニ(ファミマ)があります。(ファミマが入る建物は、「オガールベース」と呼ばれています。)その建物のアーケードを数百メートル西に進んでいただくと役場があります。
紫波中央駅前一帯が「オガールエリア」と呼ばれ同じような建物が4棟建っています。役場も
その一つです。ちなみに「オガールプラザ」「オガールセンター」と呼ばれる建物もあります。」
その、「オガールベース」がこれ。

「紫波町の方言で「育つ」「成長する」というのを「おがる」といいます。
(小職は、栃木出身のためほとんど使用しませんが・・、地域のおじいちゃんおばあちゃん方が主に使います。)
それと、「駅」を意味するフランス語の「Gare(ガール)」の2つを組み合わせて「オガール」となってます。」
という事だが、「おがる」というのは紫波だけではなく岩手の他の地域でも使うので、私はすでに知っていた言葉。それにフランス語を掛け合わせ、更に英語的な綴りの「OGAL」としたわけだ。
オガールベースの向い側がこれ。

建ってからおそらくまだ数年しか経っていない印象。
昼食はオガールベースの裏側にある「鮨 清次郎」に入る。

この店、盛岡では回転寿司なのだが、ここはそうではなく、テーブルと座敷とカウンターのある普通のお寿司屋さん。ランチのちらし鮨を頂いてから、またオガールエリアを少し散歩。

写真には写っていないが、赤とんぼが芝生の上を乱舞している。その中の1匹をハクセキレイが仕留めたらしく、地面の上を歩きながら食べようとしていた。その様子をしばし観察。撮影は失敗してしまったが、セキレイのくちばしの大きさからすると獲物は大きめなので、かなり苦労して食べているように見えた。ちょっとした初秋の光景であった。
会場の町役場。

講演は1時間半。テーマは「保健師自身のメンタルへルス」なので、慣れた内容。30人ほどのこぢんまりとした会であった。いつものように、無記名で自由質問を書いてもらって、後半はそれを読み上げて答えたのだが、「講演料はいくらですか」というご質問があって、苦笑。
申し上げておくが、私は芸能人ではないので、講演料などたかが知れている。芸能人だと50万とか300万とか、スゴイ数字が並ぶらしいが、そんなにもらえるなら、例えば一昨年度の12件で600万~3600万の収入になる事になる。そんな夢みたいな話があるわけがない。だいたい、私の話に値段がつく事さえ奇跡だと思っているくらいなので、ご依頼をご検討中の方は、どうぞお気軽にお声をかけて下さいませ。
講演終了後、オガールエリアの中のマルシェに立ち寄る。

講演を聴かれていた保健師さん3人と会い、美味しいとお勧めのあったプルーンとブドウを買う。美味しかったし、何よりもかなり安い。
駅の上から眺めたオガールエリア。

新しい地方の街づくりのモデルとして、いろいろな所からの見学者も来るらしい。確かに新しい波を感じるような街の姿であった。
帰りは北上まで東北本線で南下して、そこから新幹線で帰路に。
お土産に紫波の地酒を頂く。

岩手県産の酒造米「ぎんおとめ」を使用したしっかりとした酒であった。マルシェでお会いした保健師さんによると、ワインも盛んに作られているらしい。次の機会があれば、今度はワインにも会ってみたい。

講演なのだから遊びの要素を取り入れる必要はなかろう、と、普通なら思うだろう。近隣だけで講演していた頃は、私もそう思っていた。
だが、見知らぬ土地に行くのなら、やはりその土地やその地の食べ物を楽しみたいという方向に変化したのが、本誌関連の地方講演である。
紫波町は残念な事に駅と会場周辺しか訪れられなかったが、それでも、日常とは違った景色に、味わいを感じる事が出来る旅であった。夕方、北上までの電車に沢山同乗していた高校生たちのそれぞれの人生が、この先どう進んでいくのかな、とか、東京に出てくる子が多いのかなとか、田園風景に生きる若者の将来みたいな事をぼんやり考えるのも、またひとつの楽しみである。

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