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会員からの活動報告

 会員からの活動報告一覧 > 片野田耕太(国立がん研究センター がん対策研究所)2024.07.30

はじめに

「先生、水たばこがヤバいです」

1年半ほど前、自治体の保健師の方から言われて「え? イスラム圏などで見かけるあれ?」と困惑してしまったことを覚えています。IQOSなどの「加熱式たばこ」が発売されて約10年、量販店などで売られている「電子たばこ」、さらに「水たばこ」まで登場するとは。
「禁煙推進学術ネットワーク」(たばこ問題に関わる学術団体の連合体)では、下記チラシの通り「加熱式たばこ」と「水たばこ」について学ぶイベントを開催します。みなさまぜひご参加いただき、たばこ対策の情報アップデートにお役に立てていただけますと幸いです。本稿でも新型たばこの概要について簡単に解説します。

第6回禁煙推進学術ネットワーク学術会議のチラシ画像

この画像からイベントの詳細ページにリンクします

新型たばこの種類

加熱式たばこ

「加熱式たばこ」は日本で最も流通している新型たばこで、代表的な製品はiQOS、Ploom、gloの3つです。「加熱式たばこ」は「たばこ葉」を含んでおり、れっきとした「たばこ製品」です。たばこ本体であるスティック(紙巻きたばこを細く短くしたような形状)を、加熱装置のあるホルダー(デバイス)に差し込む構造になっています。日本ではたばこの広告規制がゆるく、「加熱式たばこ」は発売当初からネットやコンビニなどで強力な宣伝・販売促進が行われています。毎年のようにモデルチェンジが行われ、化粧品のような外見の製品も多くあります。

電子たばこ

次に「電子たばこ」です。「電子たばこ」はニコチンを含むものと含まないものに大きく分かれます。ニコチンを含む「電子たばこ」は、英国、米国などで広く流通していますが、日本では医薬品医療機器等法で規制され、2024年4月現在認可された製品はありません。国内の量販店やコンビニなどで売られている「電子たばこ」は、基本的にはニコチンを含まないものですが、一部の製品から検出されることも報告されています。「電子たばこ」は構造的には「加熱式たばこ」と似ており、両方で使える互換デバイス・スティックもあります。

水たばこ

3つめに「水たばこ」です。「シーシャ」や「フーカ」などとも呼ばれることもあります。中東で発展した喫煙道具で、たばこ葉を含む場合もあれば、たばこ葉の代わりにサトウキビの葉などを使ったタイプもあります。主に「シーシャバー」など店舗で器具を借りてプクプクさせながら吸うスタイルです(「チルする」「チル活」などと呼ばれる)。国内では数年前から急速に広がり、シーシャバーの検索サイトまであります(それによると2024年4月現在1200店舗以上で全都道府県にある)。

健康影響はあるの?

加熱式たばこ

「加熱式たばこ」の健康影響はまだわかっていない、と勘違いしている方は多いのではないでしょうか。実際は、発売されてすでに10年近く経って健康影響についてかなりの知見が蓄積しています。2023年、日本学術会議が「加熱式たばこ」の科学的証拠と政策提言をまとめた報告を公表しました。一部の有害物質の濃度は紙巻たばこより低いものの、呼吸器、循環器、がんなどのマーカーで疾患との関連を示す結果が得られています。また、「加熱式たばこ」の使用は禁煙(紙巻たばこをやめること、以下同じ)をむしろ困難にすることも報告されています。受動喫煙についても、家庭内で「加熱式たばこ」を使うと同居家族(非たばこ使用者)の尿からニコチン代謝物が検出されています。

電子たばこ

「電子たばこ」の健康影響は海外での検討が蓄積しており、従来型のたばこより有害性が低いという評価が一般的です。例えば英国の公的保険であるNHS(国民保険サービス)は、「電子たばこは紙巻たばこよりはるかに害が少ない」と公式に認めています。ただ、これまでNHSが「電子たばこ」を禁煙補助薬として承認したことはなく、第一選択は薬事承認された薬を用いたニコチン代替療法とされています。また、非喫煙者には推奨されないことと、未成年には販売してはならないことも強調されています。米国では、2019年にかけて若年層で「電子たばこ」が流行し、電子たばこ関連肺障害(EVALIと略される)が数多く報告されました。

水たばこ

「水たばこ」について、米国の疾病管理予防センター(CDC)は、使用される炭から高濃度の一酸化炭素、金属、発がん物質などが発生することを指摘しています。日本でも、シーシャバーで水たばこ使用者が一酸化炭素中毒となり救急搬送された事例があります。厚生労働省の研究班では、「水たばこ」の国内での使用状況、シーシャバーの有害物質濃度、健康被害の認知状況などを調べています。

禁煙の助けになるの?

加熱式たばこ

日本では「ハームリダクション」という言葉で「加熱式たばこ」が禁煙の助けになるかのように喧伝されています。実際はどうなのでしょうか。現在の結論としては否です。「加熱式たばこ」使用者の多くが紙巻きたばこと両方使うようになり、またいったん禁煙できても再喫煙につながることが多いと報告されています。

電子たばこ

ニコチンを含む「電子たばこ」は、禁煙の助けになるという証拠が蓄積しており、コクランのレビューではニコチン代替療法よりも効果が大きいとされています。英国NHSは「電子たばこは禁煙の助けになる」と公式に認めています。ただ、再喫煙については「電子たばこ」の使用者のほうが多いことも報告されています。

水たばこ

「水たばこ」が禁煙の助けになるかどうかについては明確ではありません。前述のCDCのサイトでは「水たばこは、紙巻きたばこの安全な代替物ではありません」と明記されています。

おわりに

加熱式たばこ、電子たばこ、水たばこについて、現在わかっていることをざっと紹介しましたが、書いていてやはり複雑だなと感じました。加熱式たばこと電子たばこについては下記の文献でも健康影響などがまとめられています。11月16日(土)のイベントでは、このテーマを真正面から取り上げます。ぜひご参加ください!


参考文献

  1. 日本学術会議 報告 加熱式タバコの毒性を知り科学的根拠に基づく施策の実現を.
    https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-h230926-2.pdf
  2. 片野田耕太, 十川佳代, 中村正和. 「たばこハームリダクション」は可能か? 国際的動向
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/71/3/71_23-076/_article/-char/ja

 


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