【レポート】食品に関するリスクコミュニケーション~食品中の放射性物質に対する取組と検査のあり方を考える~
9月2日(金)、「食品に関するリスクコミュニケーション~食品中の放射性物質に対する取組と検査のあり方を考える~」が東京都千代田区永田町の星陵会館で開催された。
消費者庁の藤田佳代さんの司会のもと、厚生労働省の岡本一人さんより「食品中の放射性物質の対策と現状について」、農林水産省の吉岡修さんより「食品中の放射性物質検査結果について(平成23年度~平成27年度)」の講演があり、その後、長崎大学の堀口逸子さんがファシリテーターを務め、夏目智子さん(全国地域婦人団体連絡協議会)、君嶋治さん(原木しいたけ生産者)、三宅香さん(イオンリテール株式会社)、佐藤久志さん(福島県立医科大学)、松永和紀さん(科学ジャーナリスト)、筬島一浩さん(内閣府食品安全委員会事務局)、青木敦隆さん(栃木県農政部)、岡本一人さん、吉岡修さんらとともにパネルディスカッションが行われた。
<厚生労働省 岡本一人さん、農林水産省 吉岡修さんの講演と資料のまとめ>
1.基準値
食品中の放射性物質への対応は、1.基準値の設定、2.検査、3.回収・廃棄、出荷制限等、そして出荷制限等の解除、という流れになっている。現在の日本の放射性物質(放射性セシウム)の基準値(ベクレル/kg)は、食品の国際規格を策定しているコーデックス委員会が指標としている年間線量1ミリシーベルトを踏まえ、食品安全員会による食品健康影響評価を受けて設定している。それによると、飲料水は10、牛乳は50、乳児用食品50、一般食品100である。これは年齢や性別の違いを考慮し、最も厳しい(小さい)値を下回る数値に設定されている。食品(牛乳、乳児用食品、一般食品)に割り当てられる年間線量は、一人当たりの年間線量の上限値1ミリシーベルトから飲料水の年間線量約0.1ミリシーベルト(10ベクレル/kgの水を1年飲んだ場合に相当する量を割り当て)を差し引いた約0.9ミリシーベルトとしている。
なぜ基準値が放射性セシウムを指標としているのかというと、放射性セシウムは、東京電力福島第一原子力発電所事故の時に放出された量が多く(すでに検出が認められない放射性ヨウ素(半減期8日)は除き、半減期1年以上の核種を考慮している)、測定が約1時間と比較的短時間で済む。そしてストロンチウム90などの他の規制対象核種は、測定に数週間と時間がかかるため、生鮮食品の鮮度が落ちてしまうという課題がある。食品からの放射性物質の影響は放射性セシウムが大部分を占めており、それ以外の核種からは1割程度の影響だということが分かっている。そこで個別の基準値を設けず、他の放射性物質の影響も考慮した上で放射性セシウムの基準値を設定し、放射性セシウムだけを測っても年間1ミリシーベルトを超えないように管理できるように工夫しているとのことだった。
2.検査
国の原子力災害対策本部は平成23年4月4日、「検査計画や出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」を定めて公表している(最近では平成27年3月20日に改正)。対象自治体は青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県の17都県。
食品中の放射性物質の検査は、基本的に①精密な検査「ゲルマニウム半導体検出器を用いた核種分析法」と、②効率的なスクリーニング検査「NaIシンチレーションスペクトロメータ等を用いた放射性セシウムスクリーニング法」との組み合わせで実施される。検査機器の設置場所は都県の衛生研究所や農業試験場など(現在①は63台、②は137台)。民間分析機関へ委託する場合もあるが、費用は1検体当たり数千円~数万円かかる。平成23~28年に17都県がかけた検査費用の合計金額は約40億円である。
基準値が上回り、地域的な広がりが確認された場合は「出荷制限」、著しい高濃度が確認された場合は「摂取制限」となる。
検査対象品目は、「前年度に基準値を超える放射性セシウムが検出された品目」「前年度に基準値の1/2を超える放射性セシウムが検出された品目」「飼養管理の影響を大きく受ける品目(乳、牛肉)」「水産物(基準値の1/2を超える放射性セシウムが検出された品目)」などである。
平成27年度の検査点数の合計は260,538点。そのうち肉類が8割を占める。次に多いのは水産物。肉類を除くと半数近くが福島県産である。
100ベクレル/kg超が検出されたものは、「栽培/飼養管理が可能な品目群」では米〈2点〉、豆類・雑穀類(大豆、ソバ)〈3点〉、「栽培/飼養管理が困難な品目群」はきのこ類(野生)〈16点〉、山菜類等(野生)〈63点〉、野生鳥獣肉類〈166点〉、水産物(淡水産)〈14点〉だった。
3.生産者の低減対策
食品中の放射性物質の検出点数が格段に減ったのは、ひとえに生産者の方々の血のにじむ努力の賜物である。
生産者が取り組んでいる放射性セシウムの低減対策は、例えば「カリ(カリウム)施肥」による放射性セシウム吸収抑制対策だ。土壌中のカリウムは、放射性セシウムと化学的に似た性質を持っているため、カリ施肥をすることで稲などの農作物の放射性セシウム吸収の抑制が可能となる。また、樹体に付着した放射性セシウムは、粗皮を削る、高圧水で樹体を洗浄することで低減できる。茶葉においては、葉や樹体に付着した放射性セシウムを剪定、整枝することで対処する。きのこは安全なきのこ原木を購入や簡易ハウス等の防除施設の整備を行うなど、さまざまな取り組みを行っている。
4.輸出規制
輸入規制をしている国々に、これらの検査結果を公表し、説明等の働き掛けを行った結果、米国やEUなど多くの国などで規制緩和や規制撤廃が進展したが、中国、台湾、香港、韓国では依然として福島、茨城、栃木、群馬、千葉等の農作物、水産物の輸入停止や規制を維持している。
<パネルディスカッション:会場からの意見・質問と登壇者の答え(一部抜粋)>
・莫大なコストがかかるので、縮小したほうがよいという意見もあるが、安心には変えられない。子どもの内部被曝を防ぐためにも続けていってほしい。
→食品リスクは放射性物質だけでないので、他のリスクにも予算を回せるよう、社会全体で悩みながら、より良い方策を見いだしていく必要がある。(松永さん)
・水産物の汚染と今後の取り組みは?
→浸透圧によって海水魚の中に取り込まれた放射性セシウムはかなり早いスピードで外に出ていく。福島第一原子力発電所に近い海域の底魚は高い傾向にあるが、市場へは検査をして安全なものだけを出荷している。海産物は「栽培/飼養管理が困難な品目」分類されている。淡水魚は海水魚と比べ除染に時間がかかる傾向にある。これから段階を経て考えていく。(吉岡さん)
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