【レポート】第9回特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会
12月21日、厚生労働省健康局の「第9回特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会」(座長=永井良三自治医科大学学長)が開かれ、平成30年度から実施される第3期の特定健診・特定保健指導で、新たに設定が必要な受診勧奨判定値・保健指導判定値や効果的な保健指導について議論した。
新たな受診勧奨判定値および保健指導判定値を提示
この日、事務局は当検討会をはじめ保険者による健診・保健指導等に関する検討会(保険局)、労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会(労働基準局)で、これまでなされた議論を踏まえ、新たに設定が必要な受診勧奨判定値および保健指導判定値の案を提示した。
non-HDLについては、現行のLDLの判定値+30mg/dlとなる受診勧奨判定値170mg/dl、保健指導判定値150mg/dlとした。随時血糖については、空腹時血糖と同じ受診勧奨判定値126mg/dl 、保健指導判定値100mg/dl とした。なお、随時血糖は食後3.5時間から10時間までの採血としている。10時間以上は空腹時血糖となる。eGFRについては、当該年の血圧または血糖検査が保健指導判定値以上の者で、医師が必要と認める者に対して実施し、保健指導判定値60ml/分/1.73m2、受診勧奨判定値45ml/分/1.73m2とした。尿たんぱく検査の判定については、受診勧奨判定値と保健指導判定値を設定せず、高血糖や高血圧などの併存リスクに応じた生活習慣の改善方法などを「標準的な健診・保健指導プログラム」の改訂の際にフィードバック文例集の中で例示することとした。事務局案はおおむね了承された。
効果的な保健指導、リピータ対策について
前回の検討会では、第3期の特定保健指導に関して以下の3つの論点が示されていた。
論点① 現在は特定保健指導の対象とならない非肥満の危険因子保有者に対して、どのような保健指導を行うべきか
論点② 特定保健指導(積極的支援)における支援ポイント数と効果との関係性を踏まえ、より効果が見込める保健指導の実施方法を提示してはどうか
論点③ 繰り返し特定保健指導の対象となる者に対して、どのような保健指導を行うべきか
前回に議論を終えた論点①に続き、この日は論点②と③について意見を交わした。それに先立ち、岡山明参考人(合同会社生活習慣病予防研究センター)と津下一代構成員(あいち健康の森健康科学総合センター)から報告がなされた。
岡山参考人は、特定保健指導の効果要因を検討した研究結果を報告した。国保・被用者保険の医療保険者と特定保健指導機関の協力を得て、特定保健指導データと特定健診結果を突合し、各医療保険者の実施体制等の調査結果を加えてデータを作成。特定保健指導の利用率、終了割合、検査結果を効果として、また対象者特性、指導体制、指導者種別を効果要因として解析した。結果は、同じ積極的支援の階層で指導を受けた人と受けなかった人(比較対照)では、指導を受けた人のほうが体重低下が大きかった。動機づけ支援でも同様に体重が低下していたが、積極的支援と比較して比較対照との差は小さかった。「喫煙あり」「多量飲酒あり」「朝食を食べない」は終了割合が低く、体重が低下しにくかった。「運動習慣あり」「身体活動あり」「生活改善実践あり」は、終了割合は高かったが体重低下は小さかった。初任者の技術到達度を評価する仕組みを持っている、あるいは保健指導実施者の事例検討などの体制を持っていると、指導効果が高くなる傾向が見られた。また、積極的支援、動機付け支援ともに、リピータ(2年連続して受けた人)の場合は、初年度も翌年も「支援なし」とほぼ同様の改善にとどまった。
津下構成員は、宿泊型新保健指導(スマート・ライフ・ステイ)プログラムについての効果検証を報告した。これは糖尿病が疑われる者等を対象として、ホテル、旅館などの宿泊施設や地元観光資源等を活用して、医師、保健師、管理栄養士、健康運動指導士等の多職種が連携して提供する保健指導プログラムで、平成27年度に自治体、健康保険組合など全国23の実証機関と試行事業を行った。結果は、宿泊時の体験によってモチベーションが高まり、3か月後、6か月後においても行動を維持することができた。6か月後の体重は有意に減少し、HbA1cについても改善傾向にあった。また、 翌年健診データでは、対照群と比較すると体重、HbA1cにおいて有意な改善がみられた。
2人の報告を踏まえた議論の中で岡村智教構成員(慶應義塾大学医学部)は、岡山参考人の報告において「喫煙あり」「多量飲酒あり」が保健指導終了率や体重減少にマイナスの影響を与えていることを取り上げ、「飲酒と喫煙に関しては非肥満者でも同じ状況にある」と指摘。特定保健指導においては飲酒と喫煙対策の重要性をもっと打ち出すべきと強調した。それに関して岡山参考人は「保健指導プログラムを実施する中で、飲酒と喫煙に関しては支援者の熟練度が運動・食事などと比べ低い気がする。そのあたりの技術向上が大切と思う」と話した。
高齢者および40歳未満の保健指導について
この日は、前出の3つの論点に加えて、以下の2つの論点が事務局から示された。
論点④ 年齢を考慮に入れた特定保健指導の在り方についても提示してはどうか
論点⑤ 特定保健指導の対象ではないが、40歳未満の肥満者に対する保健指導も重要ではないか
追加された2つの論点に関連し、津下構成員は「65歳以上に対する情報提供・保健指導の在り方」と「40歳未満に対する情報提供・保健指導の在り方」について、データに基づき解説した。高齢期においては、腹囲は基準値以上であるがBMIが25未満の人が保健指導対象となるケースが増え、筋肉量の減少がインスリン感受性を低下させ糖代謝異常等を引き起こす「サルコペニア肥満」に着目し、筋肉量の維持に留意し急激な減量を避けるように注意し、運動と食事改善の併用が重要であると話した。また、40歳未満の肥満では血圧、血糖の有所見率が低く、肝機能、脂質代謝の有所見率が高いことを示し、「メタボリックドミノの上流側への働きかけが必要」と強調した。
当検討会のこれまでの議論を踏まえ、今後は作業班において「標準的な健診・保健指導プログラム」の改定作業が進められる。
保険局の検討会から報告
最後に、保険局医療介護連携政策課データヘルス・医療費適正化対策推進室の高木有生室長より、12月19日に開かれた「第26回保険者による健診・保健指導等に関する検討会」の報告がなされた。その中で示された「特定保健指導の実績評価を3か月後でも可とする」という内容に、構成員からは異論を唱える声が続出した。「この会合はエビデンスに基づく検討会。それがないままに突然、制度全体に影響がある変更はいかがなものか。『標準的な健診・保健指導プログラム』にも影響が出てくる」などの声が聞かれた。保険局と健康局で並行して進めてきた検討会の食い違いが明らかとなり、この問題の扱いについては事務局間で調整することとなった。
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