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【レポート】第4回生活保護受給者の健康管理支援等に関する検討会

1月18日、厚生労働省の「第4回生活保護受給者の健康管理支援等に関する検討会」(座長=尾形裕也東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)が開かれた。生活保護受給者の医療・健診データ等の情報基盤の構築や、受給者の子どもの健康支援を議題に意見を交わした。

生活保護受給者の医療・健診データ等の情報基盤の構築案を提示

生活保護受給者には糖尿病など完治が難しい疾患を抱えている者が多い一方で、健診データを生かした発症予防や未受診者対策などは遅れている。また、生活保護法改正により福祉事務所が健診結果を入手することが可能となったが、多くの福祉事務所ではレセプトとの突き合わせや内容分析をする専門職が不足している。検討会では2016(平成28)年7月に初会合を開き、次期制度改正に向け、健診データを活用した生活保護受給者の健康管理に関する支援について、介入方法や評価方法などを議題に検討を重ねてきた。

この日、事務局は生活保護受給者の医療・健診データシステムの構築案を提示した。まず現状の課題として、①医療保険者では特定健診・特定保健指導などで健康支援・データ分析を行っているのに対し、生活保護受給者では行われていない②健診データのフォーマットが自治体により異なり、医療機関の検査データも標準化されていない③生活背景因子を記載する標準フォーマットがない④自立支援医療など他の公費医療を受給している場合は福祉事務所にレセプトが送付されないため、個人の健康や医療の状況が分からない――の4点を挙げた。

それに対する今後の方向性として、①医療保険との共通部分と生活保護独自の部分に着目し、具体的なシステム構築を検討する②健診データや医療機関の検査データを特定健診と同じフォーマットに変換する仕組みを作る③生活背景因子に関する標準フォーマットを作成する④自立支援医療レセプトを福祉事務所が入手できるようにする――とした。これらを行うことで福祉事務所には、支払基金から医療扶助レセプトと自立支援医療レセプト、市町村の保健部局や医療機関から標準化した健診データや生活習慣病に関する検査データ、さらにケース面談により生活背景因子(標準化したもの)が集められ、データの集約と分析が可能となる。

法整備が必要となりシステム構築は数年かかる見通し

津下一代構成員(あいち健康の森健康科学総合センター長)は、「特定健診の生活習慣に関する問診では2600万人のマクロ的なデータがあり、喫煙など具体的な項目の課題を可視化している。生活保護受給者のデータも、大枠はこうした他の仕組みの土台に乗ってつくれば、生活保護受給前後の連続性も保たれ、保険者との比較も可能で、開発経費も少ないのではないか」と意見を述べた。また、「大枠プラスアルファの部分として生活背景因子があるが、マニュアルやガイドラインなどでそれを聞き取る項目が示されているのか」と事務局に質問した。これに対して事務局は「生活保護受給者のマクロ的なデータに関してはナショナルデータベースなどとの連動が重要だが、現時点では技術的な課題もあるので、関係部局と相談したい。また、生活背景因子の聞き取りに関する手引きのようなものはあるが、福祉事務所によって違うため、その中から健康支援に使える情報をどうフォーマットに落としていくかが課題となる。まずは標準的なフォーマットづくりから始めたい」と述べた。

中板育美構成員(日本看護協会常任理事)は「データに基づく健康支援システムのインフラ整備には法整備が必要なものがあると思うが、法整備が必要な部分と、他のレセプトとの調整で整備できるものを整理してほしい」と事務局に求めた。事務局は、自立支援医療の情報をそれ以外の目的に使うには法律上の手当が必要との認識を示し、「平成29年度に生活保護全体について検討する中で、生活保護受給者の健康管理支援を仕組み化する上で必要な部分については制度化していきたい」と述べた。

また、構成員から法整備も含めた全体のスケジュールの見通しに関する質問があり、事務局は「まず標準的なフォーマットをつくり、それから福祉事務所の支援戦略、標準的な介入法をマニュアル化する。また、レセプトと健診データ、治療中の検査データをもとに、保険者で行われているようにデータから地域内の健康状態の分析をする。さらに情報の流れのフローをつくる作業もあり、数年単位の準備期間が必要」と答えた。

生活保護受給者の子どもへの健康支援について検討

この日は、これまでの会合の中でもたびたび話題に上った、生活保護受給者の子どもへの健康支援についても検討した。全国の生活保護受給者の子どもで幼稚園から高校までの人数(5~17歳)は20万人余りで、一般世帯の子どもよりも生活習慣や健康に支援が必要な子どもが多いとみられている。そうした中で、子どもに介入する制度的な枠組みが十分でなく、家庭訪問などでも子どもに着目した支援が行われていない状況にある。

議論に先立ち事務局は、生活保護受給者の子どもの健康支援に関して「子どもの食事、生活習慣の確立に注目し、子どもの健康問題を世帯全体の問題として捉える」と方向性を示した。福祉事務所の役割としては、①健康支援の対象者になる子どもを発見する②子どもだけでなく保護者も含め、「生活保護受給者の健康支援」の枠組みで世帯全体にアプローチすることで子どもへの生活習慣形成に係わる環境整備を行う――の2点を挙げた。また、支援対象の子どもの抽出方法として、①学校健診の結果、生活保護受給者の子どもで、むし歯・尿糖陽性・肥満などのハイリスク者については保護者の同意のもと学校から福祉事務所へ情報提供②ケースワーク業務の中で健康支援の対象となる子どもを抽出――の2つのルートを示した。

議論の中で、津下構成員は「未就学児に関しては、生活習慣教育を行っている保育園との連携が重要だが(生活保護受給者の子どもは)通えるのか。また、母子保健では3歳児健診をフォローしているのか。就学児に関しては、肥満児への指導が差別やいじめにつながることもある中で、実践事例はあるのか」と質問した。これに対して事務局は「未就学児が保育園に通うことは可能。また、母子保健で3歳児健診のフォローをするが、必要があれば生活保護制度との連携も考えていく。学校保健の中では特に生活保護を対象とすることはできないので、家庭ベースの支援を考えている。親の支援で間接的に子どもへの支援はあるが、子どもに着目した事例はない」と答えた。

中板構成員は「乳幼児の場合、ほぼ親の影響を受けるので母子保健の中での指導は難しく、親の様子を確認しながら要支援でサポートしていると思う。母子保健の受診率は95パーセントで、その中に生活保護受給者も入っているので状況の把握は容易だ。自治体では生活教育のできる保育所へ誘うという形をとっていると思うが、受給者の子どもの健康という枠組みではないので、今後そこを丁寧に積み上げる必要がある」と意見を述べた。

子どもの健康支援を福祉事務所が担う上での問題点

小田真智子構成員(川崎市健康福祉局生活保護・自立支援室医療・介護係長)は、「親は就労で精いっぱいで、子どもを病院に連れて行けないなどの事情がある。単に病気だから支援に乗せるというのでなく、その切り口だけでは理解しきれない事情をどう汲んでいくのかが重要。また、福祉事務所の役割が示されているが、予防と生活保護との関係をどう考えるのかによって担当者のモチベーションも変わってくる。子どもの病気が就労に影響することなども考慮した上での環境づくりが必要だ」と指摘した。

小枝恵美子構成員(全国保健師長会常任理事)は「保健福祉事務所で市役所や児童相談所などと困難事例を検討するときは、養育や成長発達の視点から見ることが多い。そして生活保護というよりは、ぎりぎりの生活における養育困難、虐待、親御さんの精神疾患などで事例を把握している。いずれにしても子どもの病気から見ているわけではない。また、子どもの問題を扱う場合はワーカーではなく保健師や児童相談所職員など、その問題で親が信頼し受け入れてくれる人がメーン。福祉事務所が行うというのはちょっと違うと思う」と意見を述べた。

検討会では28年度末を目処にとりまとめを行う予定。

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