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親子を支える地域の保健師活動を学ぶ ~平成30年度 日本看護協会全国保健師交流集会~

6月13日、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で、「平成30年度 日本看護協会全国保健師交流会」が開かれ、全国各地から488人が参加した。今年度の重点政策・重点事業の発表や、特別講演、シンポジウムなどが行われた。

開会のあいさつで、保健師職能委員長の中板育美常任理事は「特別な配慮が必要な子どもや育てにくさを感じる親が増えている今、私たちは親や子どもが関係性を育んでいく環境をより心地良いものにしていく必要がある。本日の交流集会のコンセプトは『未来を託す子どもに優しいまちづくりへ』だ。子育て包括ケアでは、全ての子育てを分け隔てなく、応援からケア、ケアから地域づくりまで考えていきたい。求められる私たちの姿勢や態度、知識や技術について考える一日にしていただきたい」と述べた。

平成29年度の保健師職能委員会活動報告では、保健師のキャリア形成に関する取り組み、地域包括ケアシステムの構築・推進に関する取り組み、保健師のネットワーク及び組織強化に関する取り組み――の3つについて、各委員から発表がなされた。このうち、キャリア形成に関しては、キャリアラダーを作成している都道府県が19と少ないことから、「キャリアラダーを反映した保健師活動指針や人材育成ガイドライン策定を推進する」「キャリアラダー活用を推進する」の2点が提言として盛り込まれた。

平成30年度の保健師職能委員会の活動方針としては、▸看護管理者および行政保健師の機能強化と連携の推進(重点事業)▸包括的な母子支援のための看護機能強化(重点事業)▸保健師の活動基盤に関する基礎調査▸保健師のキャリア形成の推進▸健康寿命の延伸に向けた地域連携推進▸保健政策に関する政策提言・要望及び関係団体との連携促進――の6つを掲げた。

特別講演では、精神科医の鷲山拓男氏(とよたまこころの診療所長、子どもの虐待防止センター評議員、日本こども虐待防止学会理事)が「〝母〟でなく、〝父〟ではなくて〝親〟になる ~それを支える保健活動~」をテーマに講演した。

厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第13次報告)」によれば、心中以外の虐待死亡事例52人のうち、0歳児は30人、未受診出産は17人、10代妊娠は13人であったという。この数字から鷲山氏は「これらの死亡を減らせるのは母子保健。児童福祉の虐待対応で減らせる虐待死亡は一部に過ぎない」と述べた。

また、子育て負担が母親に偏り過ぎているわが国の実態は、生物学的には〝間違い〟であると指摘した。行動生態学の知見によれば、ヒトはメスのみで子育てする動物ではなく、両親揃って子育てをする動物でもなく、非血縁を含む多くの個体が子育てに関わる共同繁殖の動物なのだという。しかし、わが国には母性を神格化する傾向があるため、生物学的な法則から外れてしまっている。「親の養育能力が不足しているなら、他の大人たちが子どもに手を差し伸べることが大切。地域社会こそが子育ての主体だ」と話した。一方、父性については、日本には西洋の「父なる神」に当たるような垂直関係の倫理規範がないため、水平関係に「つなぐ」役割が日本の父親像として相応しいとの考えを示し、父性を発揮せよと〝指導する〟のではなく、家庭を地域社会に開くよう父親を〝援助する〟のが保健師の役割だとした。

以上のことを示した上で、鷲山氏は「人は自ずと親になるのではなく、指導や訓練により親になるのでもなく、親と子どもが地域社会の一員として支えられていくことによって親になる」と強調した。

今後の日本の方向性を考えるにあたり、1980年代の米国の失敗例を紹介した。当時の米国では虐待の発見と監視、子どもの分離・保護、親の指導という発想に偏り、虐待通告の件数が急増する中で予防のための援助を発展させることができず、母子保健を衰退させてしまい、その後、予防のための地域支援に取り組んだが、母子保健衰退のために容易ではなかったという。最後に「わが国は2016年の法改正を期に親たちを『仲間として』支える地域社会づくり、子育て家庭を地域社会につなぎ開く保健師活動を発展させていくことが今、求められている」と語り、講演を終えた。

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