平成30年度全国厚生労働関係部局長会議(第1報)
1月18日、厚生労働省の平成30年度全国厚生労働関係部局長会議が開かれ、各部局の施策と来年度予算案が説明された。午前中のプログラムについて報告する。
大口善德厚生労働副大臣の挨拶【要旨】
まず、2040年を展望した社会保障、働き方改革について申し上げる。団塊ジュニアの世代が高齢者となり現役世代の減少が進む2040年ころを見据え、高齢者をはじめとした多様な就労、社会参加の促進、就労や社会参加の前提となる健康寿命の延伸、労働力の制約が強まる中での医療・福祉サービス改革による生産性の向上などの検討を着実に進めていく。
本年夏を目途に健康寿命延伸プラン、医療福祉サービス改革プランの策定など、施策の取りまとめを行うこととしている。
本年10月から幼児教育保育の無償化がスタートする。認可外施設の質の担保など、関係者の方々の意見を十分聞きながら、円滑な施行に向けて取り組んでいく。引き続き待機児童の解消、放課後児童対策などの受け皿整備に取り組むとともに、職務改善等の保育人材確保に取り組んでいく。少子高齢化という最大の課題を克服するため、理解と協力をお願いしたい。
さらに、児童虐待防止対策の抜本的強化、社会的養育、一人親家庭支援、母子保健対策などに取り組んでいく。児童虐待防止法については、今後、開催する通常国会の提出に向けて法案の準備を進めている。
昨年は多数の公的機関において障害者の雇用率が未達成であったことが明らかとなった。障害者雇用施策を推進する立場として事態を重く受け止め、その再発防止や法定雇用率の速やかな達成と、障害者の活躍の場の拡大に向け、政府一体となって取り組んでいく。また、障害者雇用の一層の促進をはかるための改正法案の準備を進めていく。障害のある方がいきいきと地域生活を営むことができるよう、生活支援やグループホームの整備等に引き続き取り組んでいく。
昨年6月、長時間労働の是正などの改革を実現するための、働き方改革関連法案が成立した。今後、改正法の円滑な施行に取り組んでいく。地方の中小企業までこの働き方改革の取り組みが浸透するよう、引き続きご協力をお願いしたい。
昨年7月に成立した改正医療法等に基づき、医師の地域偏在、診療科偏在の解消に確実に取り組んでいく。昨年12月末、山形県酒田市の医療介護の取り組みを視察してきた。限られた医療資源の中で、切れ目ない医療介護の提供体制を確保するためには、地域医療構想を通じて医療介護等との連携強化等を進めることが重要である。
また、医療と介護のレセプト情報等のデータベースの連携、高齢者の保健医療と介護予防の一体的な実施によるフレイル対策等の取り組みを進めるため、今後、開催する通常国会の提出に向けて法案の準備を進めている。
さらに地域包括ケアシステムの中で、患者が安心安全な薬物情報を受けられるよう、かかりつけ薬剤師、薬局を推進するための法案を通常国会への提出に向けて準備を進めている。
昨年6月に成立した改正生活困窮者自立支援法等に基づく、就労、家計、住まい、学習支援等に関する包括的な支援体制の強化に向けた取り組みを着実に進めていく。
認知症対策については、昨年12月25日、認知症施策推進関係閣僚会議が開催され、本年の初夏を目途に政府全体の取り組みに関する大綱を取りまとめることとなった。認知症施策が喫緊の課題であるという認識のもと、関係省庁と連携し効果的に施策を進めていく。
また、平成31年は、成年後見制度利用促進基本計画の中間年にあたる。全国どの地域においても必要とする人が成年後見制度を利用できるよう、地域連携ネットワークの中核となる機関の整備や市町村計画の策定を強力に進めていくよう、お願いしたい。
昨年7月に成立した改正健康増進法の円滑な施行に向けた準備等を進め、望まない受動喫煙のない社会の実現を目指している。受動喫煙防止に関する普及啓発の促進等に協力をお願いする。
また、第3期がん対策推進基本計画に基づき、がんの医療提供体制の充実や治療と仕事の両立支援、地域での相談支援体制の充実等を推進していく。
さらに、風疹対策については、今後3年間かけて患者数の多い39歳から56歳の男性に抗体検査および予防接種を原則無料で受けていいただく等、さらなる対策を進めていく。
厚生労働省としては、地方自治体の皆さまとしっかり連携し、施策を進めていくので、今後とも厚生労働行政への理解と協力をお願いする。
大臣官房厚生科学課
佐原康之審議官(危機管理、科学技術・イノベーション、国際調整、がん対策担当)は、平成30年に起きた自然災害から得た教訓を踏まえ、厚生労働省としての対応を3つ挙げた。1つは年度内に「厚生労働省防災業務計画」「厚生労働省業務継続計画」などの諸規程を改訂すること。2つ目は厚生労働省本省職員の災害派遣についても引き続き遅滞なく行うこと。3つ目として、大規模災害発生時の人工呼吸器を使用している在宅患者の安否確認の徹底を挙げた。人工呼吸器を使用している在宅患者は停電や避難に際し、当該機器の電源確保や予備のポンプが必要となるなど特に配慮が必要となる。佐原審議官は北海道胆振東部地震では全道が停電したことを取り上げ、市町村には平時からの要支援者の把握と災害時の迅速な安否確認、都道府県には防災担当部局と連携した市町村の取り組みの促進を求めた。
子ども家庭局
濵谷浩樹子ども家庭局長は、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援に関する施策として、子育て世代包括支援センターの設置状況、データヘルス改革における乳幼児期・学童期の健康情報、不妊の特定治療支援事業--の3つを説明した。
子育て世代包括支援センターは2020年度末までに全国展開を目指しているが、2018年4月1日時点で761市区町村、1,436か所の設置となっており、「設置促進を図るために開設準備経費の補助等の予算を用意している。2017年8月に策定したガイドラインを参考に地域の実情に応じた積極的な取り組みをお願いしたい」と話した。
データヘルス改革における乳幼児期・学童期の健康情報では、昨年4月「データヘルス時代の母子保健情報の利活用に関する検討会」を立ち上げ、乳幼児健康診査の記録等のうち、最低限電子的に管理されるべき情報に関する様式の標準化(ミニマム・データセット)などについて検討を進めてきた。同検討会の中間報告を踏まえ、乳幼児健診および妊婦健診のマイナポータルでの閲覧、市町村間での情報連携は2020年6月の運用開始を目指している。平成31年度予算案では市町村のシステム改修の予算を計上している。濵谷局長は「マイナンバー制度における中間サーバーへの登録にかかる準備をお願いしたい」と要請した。
不妊の特定治療支援事業については、男性不妊治療にかかる初回の助成額を15万円から30万円へ拡充しているとした。
児童虐待防止対策として、昨年12月の「児童虐待防止対策体制総合強化プラン(新プラン)」を取り上げた。同プランでは、2019年度の児童相談所の児童福祉司は1,070人増の4,300人、児童心理司は260人増の1,610人、保健師は110人増(各児童相談所への配置)、市町村の子ども家庭総合支援拠点は現行の106市町村から800市町村への設置を目指している。この計画を踏まえ、地方財政措置を付け替えでなく純増で講じるという。来年度予算案で都道府県等が行う児童福祉司等の採用活動への支援、市町村子ども家庭総合支援拠点の開設準備の経費の支援などが創設されるとし、積極的な活用を求めた。
児童相談所の業務の在り方や要保護児童の通告の在り方などについて検討する「市町村・都道府県における子ども家庭相談支援体制の強化等に向けたワーキンググループ」は、昨年12月に取りまとめを行い、「都道府県等における保護機能と支援マネジメント機能を確実に果たすことができるようにするための体制整備」などの提言が盛り込まれた。これを踏まえ、次期通常国会に児童福祉法等の改正を提出すべく準備を進めているとした。
社会的養育については、2019年度末までに都道府県社会的養育推進計画を策定することになっている。濵谷局長は「平成31年度予算で、計画策定に向けた各都道府県等の取り組みを支援するため、包括的な里親養育支援体制の構築、特別養子縁組の推進などの必要な予算を計上した」と報告。これらの事業の積極的な活用を求めた。
健康局
宇都宮啓健康局長は、「風しんの抗体保有率が低い現在39~56歳の男性に対し、全国で3年間、原則無料で予防接種を実施する」と話した。予防接種法に基づく定期接種の対象として実施される。約8割の人は抗体を持っているため、ワクチンの効率的な活用という見地から、まずは抗体検査を受けることが前提。また、就労層が対象となるため、事業所健診の機会に抗体検査を受けられるようにし、夜間・休日の抗体検査・予防接種の実施に向け体制を整備する。都道府県、市町村の役割については現在検討中であるという。
高齢者に対する肺炎球菌ワクチンは、原則として65歳の者が対象だが、平成30年度までの5年間は、経過措置として70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳の者に対しても定期接種を実施している。一方、この1月の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において、経過措置を継続すべきとの結論が出された。これらの経緯を説明した上で、「都道府県におかれては、管内市町村に対し、実施に向けた体制・環境の整備、5年を超える予防接種記録の管理・保存、接種率向上の周知啓発などに取り組んでほしい」と求めた。
今夏、策定予定の「健康寿命延伸プラン」では、健康無関心層へのアプローチの強化やすべての人の健やかな生活習慣形成・疾病予防・重症化予防・介護予防・フレイル対策・認知症予防などの推進により、地域・保険者間の格差の解消を図ることを目指している。宇都宮局長は、同プランを推進する際の「自然に健康になれる環境づくり」や行動経済学等の理論を活用した「行動変容を促す仕掛け」(ナッジ理論など)などの新しい手法を示した。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」については、従来の生活習慣病の発症予防・重症化予防に加え、高齢者のフレイル予防も視野に入れて検討している。2018年度末を目途に報告書を取りまとめ、2019年度に大臣告示する予定であるという。
災害時における保健師の派遣については、平成30年7月豪雨では60自治体、北海道胆振東部地震では15自治体から行われたことを報告。引き続き自治体の保健師派遣への協力と、危機に対応できるスタッフ育成を呼びかけた。
東京オリンピック・パラリンピックでは外国人観光客から輸入感染症の問題が発生する可能性が高い。感染症対策として、入国時の検疫体制の強化と、国内に入ってしまった患者についての感染症の発生動向を迅速かつ的確に把握する「サーベイランス機能の強化」の2点を挙げた。
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