社会・援護局関係主管課長会議
2019年3月5日、厚生労働省の「社会・援護局関係主管課長会議」が開かれた。
午前中の会議を傍聴し、社会・援護局長の冒頭挨拶、総務課、法務省大臣官房秘書課企画再犯防止推進室の発表を掲載する。資料は厚生労働省ページを参照のこと。
谷内繁社会・援護局長のあいさつ【要旨】
谷内繁社会・援護局長は、平成31年度に社会援護局が取り組む施策について、具体的な6点にまとめて述べた。
1.生活困窮者支援制度の推進
生活困窮者自立支援制度について、昨年6月に成立した改正生活困窮者自立支援法に基づき、生活困窮者が一層の自立を図るため、就労、家計、住まい等に関する包括的な支援体制の強化に向けた取り組みを、着実に進めていくことになっている。
とくに任意事業である就労準備支援事業および家計相談支援事業などは、必須事業である自立相談支援事業と一体的に行い、今後3年間を集中実施期間として、すべての福祉事務所、福祉事務所設置自治体において完全実施を目指すこととしている。
福祉事務所設置自治体においては、積極的な事業展開をお願いするとともに、都道府県においては管内の複数自治体による広域的な事業実施の整備など、リーダーシップを発揮いただけるようにお願いしたい。
また、今年の4月1日に施行予定の子どもの学習・生活支援事業および居住支援の強化については、福祉事務所設置自治体における円滑な施行が図られるよう、今後速やかに関係法令、通知などを示していく。平成31年度予算案における、あらたな支援措置も活用しながら、積極的な取り組みをお願いしたい。
2.生活保護制度
昨年6月に生活保護法を改正し、大学等に進学した場合に一時金を支給する、進学準備給付金制度が創設されているが、今年の春、大学などに進学する対象者に対して、進学準備給付金が漏れなく支給されるよう、特段のご配慮をお願いする。
また学習支援事業につきましては、昨年10月に制度を見直したところであるが、進級、進学の時期であるこの4月が本格的な施行時期であると考える。
新学年を迎える小・中・高校生など、保護世帯に対しあらためてリーフレットを活用した説明を行うなど、丁寧なケースワークにつとめ、学習支援金がもれなく支給されるように特段の配慮をお願いしたい。
また、再来年1月から必須事業として施行される、被保護者健康管理支援事業については、2019年度にその準備施行を実施する自治体について予算補助を行うため、十分な予算を確保した。
来年度から積極的に実施し、早期からノウハウを蓄積できるように務めてほしい
3.地域共生社会の実現に向けた取り組み
地域共生社会の実現に向け、小中学校区など、住民が身近な圏域で主体的に解決を試みる体制づくりや、地域社会全体が、複合化・複雑化した課題について、包括的な相談支援体制づくりに取り組む市町村を支援するモデル事業を実施している。
このモデル事業は、今年度で150自治体が実施しているところだが、、来年度はさらに増え、200を超える自治体が事業を実施すると見込んでおり、来年度予算についても28億円を計上しているところだ。
各自治体は、このモデル事業を活用しながら、地域共生社会の実現に向けた積極的な取り組みを行っていただくようお願いしたい。
また、改正社会福祉法は、昨年の4月1日から施行されているが、その附則において、法律の施工後3年を目途として、包括的な支援体制を全国的に整備するための方策について検討を加え、主要な措置を講ずるとしており、現在はモデル事業から見えた課題を踏まえつつ検討を進めているところだ。
4.福祉・介護人材確保対策
全産業的、全地域的に人手不足が広がる中で、サービスを支える基盤となる福祉介護人材を将来にわたって安定的に確保していくのは重要な課題。
こうした中、昨年発表した推計によると、今後2025年度末までに55万人、毎年約6万人の介護人材の確保が必要と見込んでいるところだ。
その目標達成のためには、従来のように漫然と人材確保対策を実施するのではなく、例えば若年層、子育て層、アクティブシニア層など、ターゲットごとに訴求力のある対策を講じていかなければならない。さらに、離職防止や定着促進などの取り組みを示し推進していくことが必要となる。
各都道府県おいては、地域医療介護総合確保基金や介護福祉士など、再就職準備金制度などを最大限に活用し、このように実効性のある人材確保に取り組んでほしいところである。
また、外国人の介護人材の受け入れについては、昨年の臨時国会において、出入国管理法に一部改正が成立し、あらたな在留資格として特定機能というものが出てきて、介護の職能もこれに加えられていると考えている。
4月からの実施に向け、現在全都道府県で精力的に説明会を実施している所だが、福祉介護事業所への周知とともに、外国人の介護人材の受け入れに向けた環境整備に、ぜひともご協力をお願いしたい。
5.自殺対策の推進
平成30年の自殺者は1月に発表された速報値で20,598人で9年連続で減少しており、自殺対策は確実に成果を挙げてきている。
しかし一方で、未だに2万人以上の人が自殺という形で亡くなっていることも事実であり、先進諸国の中でも自殺の数値が高いという状況は未だに変わっていない状況は深刻に受け止めなければならない。
そのため、自殺対策の地域間格差を解消し、自殺対策について必要な資源を享受できるよう、地方公共団体においては、地域の実情も勘案した計画の策定をしていただいている。
来年度は、特に若者の自殺対策に取り組んでほしい。具体的には、生きづらさを抱える若者の居場所づくりを含め、支援の対象者を、地域の社会資源に確実につなげられるようなモデルを構築し手いただきたい。国としては、地方公共団体に公布する新規自殺対策強化交付金を来年度も引き続き予算案に計上している。この交付金を積極的に活用してほしい。
6.成年後見制度の利用促進
高齢化が進んで認知症の方が確実に増えている中、成年後見制度の利用促進は極めて重要な課題だ。
H29年3月には、成年後見制度利用促進基本計画を閣議決定したところであるが、基本計画の政策の目標として掲げているのは、全国どの地域においても、必要な人が成年後見制度を利用できる地域体制の構築だ。
その実現のためには、司法、福祉、地域の関係者、金融機関等による地域連携ネットワークの中核機関の設置、自治体の体制整備に向けた市町村計画の策定など、施策を総合的・計画的に進める必要がある。
来年度は、この基本計画の3年めで、中間年度にあたるので、中核機関の整備や市町村計画の策定について、基本計画の最終年度である2021年度までに行う必要がある。
来年度予算に新たに計上した、体制整備アドバイザーや中核機関の立ち上げ支援などの補助事業を積極的に活用し、中核機関の整備や市町村計画の策定を強力に推進してほしい。
とくに都道府県においては、管内市町村の体制整備の推進について、指導的な役割をお願いしたい。
なお来年度においては、成年後見制度利用促進専門家会議で、基本計画の進捗状況を把握し、個別の整備検討を行っていくのでご留意いただきたい。
総務課(資料1)
資料1について、朝川知昭総務課長より説明があった。
Ⅲ地域共生の実現に向けた地域づくりのうち、包括的な支援体制の整備の推進について「社会福祉法が改正され、平成30年4月に施行されたところだが、更なる制度的な整備、検討をこれから進めていく。この予算でのモデル事業の活用も進め、また、モデル事業に限らずに、地域共生社会の推進に努めてほしい」と話した。
続いてⅥ 福祉・介護人材確保対策の推進において、地域医療介護総合確保基金に触れ、「地域の実情に応じた総合的・計画的な介護人材確保対策を推進するため、中高年齢者等の介護未経験者に対し、すでに入門的研修について取り組んでいる自治体も多い。より多くの高齢者にこの分野に入ってきてもらいたく、介護入門者の更なるステップアップ、現任職員のキャリアアップ支援など、各種研修をすすめほしい」と述べた。
また、外国人介護人材の受け入れ環境の整備等については、「新たな在留資格である特定技能について関心が高まっている。法務省の担当者と一緒に書く自治体をまわり説明しているところだ。自治体に依頼する役割は多々あるが、既に外国人材の確保について、強く取り組んでもらっている自治体もある。今後はそうした自治体について好事例としてとりあげ紹介していくので参考にしてほしい」と紹介した。
次に、Ⅶ 社会福祉法人や社会福祉施設等に対する支援について、小規模社会福祉法人等のネットワーク化の推進についてはこう話した。
「人口減少社会が進み、介護人材の確保が難しくなってきている中で、小規模な社会福祉法人等が非常に増えている現状にあるができる限り協働化してネットワークを組んで、地域共生社会の実現や人材確保等に踏み込んでもらうことが重要。このため大規模化、協働化について、制度的な検討は春から進める。この予算事業についてもしっかり進めてほしい。」
重点事項の説明では、矯正施設退所者の地生活定着支援について解説した。
平成21年度か始まっている事業についてすでに全ての都道府県に取り組みを進めてもらっているところだが、その業務内容を見ると、フォローアップ業務の対応件数が非常に増えている。これはやはり、地域の中にすみ始めると、一定の継続支援が必要だということがわかる。
平成31年度の予算案の内容に関しては、「新しく再犯防止推進法が成立し、平成29年12月には国の再犯防止推進計画も閣議決定された。自治体レベルでもこの計画策定の努力義務が課され、取り組みが進められている状況にある。ただし、取り組み推進には差異があり、自治体においてはしっかりと進めてもらいたい」と述べた。
法務省大臣官房秘書課企画再犯防止推進室
吉田企画再犯防止推進室長から、政府が取り組む再犯防止施策の進捗について、まず「世界一安全な国の実現のため、政府ではさまざまな施策を進めている。その中で、再犯者が全体の5割を占めていることは、重要な課題。犯罪者の多くは、貧困・疾病・嗜癖・障害・厳しい成育環境・不十分な学歴といった、幅広く複合的な問題を抱えている場合がある。」と背景を述べ、次に「こうした問題に対応するには、刑事司法関係機関の取り組みだけでは限界があり、国、地方公共団体、民間をあげての取り組みが必要と指摘されてきたところだ。再犯防止推進計画に定められた5つの基本方針のうちのひとつである、誰一人取り残さない社会の実現に向け、国・地方公共団体・民間の緊密な連携協力を確保して再犯防 止施策を総合的に推進する必要がある」と述べた。
吉田室長は続けて、この5つの基本方針を受け、7つの重点課題と施策についても次のように説明した。
「7つの重点課題と施策については、⑥地方公共団体との連携強化を掲げているが、法務省としては地域のネットワークにおける取組の支援や、地方再犯防止推進計画の策定等の促進等に取り組んでいく。また、②保健医療・福祉サービスの利⽤の促進があげられているが、これは、検挙されたが起訴猶予として処分されない場合などに速やかに福祉につなぐいわゆる入り口支援の取り組みを指している。また、薬物重犯者については、厚生労働省と連携し、薬物指導体制の整備、海外における拘禁刑に代わる措置も参考にした再犯防止方策の検討を行っていく」
次に地域再犯防止推進モデル事業については、「犯罪した者を社会内で支援して再犯を防止するためには、保健や福祉など、住民に身近なサービスを提供している地方公共団体の役割は極めて重要。」とし、こうしたことを踏まえて地方公共団体も再犯防止のための実施主体として位置づけられていることを示した。
「その取り組みの推進にあたっては、どの自治体においても必ずしも十分にノウハウがあるものではなく、そうした自治体への支援とするために、本モデル事業において本年度は30の地方公共団体に委託しているところである。」とし、資料では団体ごとの取り組み内容の説明や、1月末時点での地方の計画策定状況をまとめた一覧表があることを示した。
最後に、「国と自治体との連携を強める目的で、都道府県、市区町村とそれぞれの首長を対象にした会議も予定している。地方自治体においては、ぜひ参加してほしい」と呼びかけた。
総務課(自殺対策推進室)
宮原真太郎自殺対策推進室長から、「自殺対策の推進についての今後の取り組みは、地域と若者が大きなテーマとなる。」として、具体的に次の施策について説明があった。
●自殺対策の現状と自殺者数の推移について
宮原室長は自殺者数と自殺対策の経緯のグラフを示し、「平成30年の自殺者数は2万598人(速報値)で、9年連続で減少している。しかし、未だに2万人以上が自殺という形で亡くなっているという深刻な状況で、1日あたりで計算すると、毎日60人ほどの命が失われていることになる」と話した。
次に平成28年は自殺対策基本法の改正があったことについて、都道府県、市町村のそれぞれが自殺対策計画を定めることが盛り込まれたことを示した。地域自殺対策計画の策定に関する支援については、自殺総合対策推進センターから①地域自殺実態プロファイル②地域自殺対策政策パッケージが提供され、厚生労働省からは、地域自殺対策計画策定の手引きを提供しているとし、モデル事業を実施して、計画策定の先進事例の集積についても解説した。これらのツールを活用し、本年度中、または遅くても来年度には、地域の自殺対策計画を策定してほしいと話した。
●今後の取り組みについて
「地域の自殺対策と若者の自殺対策の2つが大きなテーマであるが、地域の自殺対策については、計画から実施というフェーズに順次移ってくるという状況」だとして、2月18日の自殺対策主管課長会議でも示した地域自殺対策のPDCAサイクルの質の向上についての図を用いて解説した。
自殺総合対策の基本方針としては、「様々な分野の施策、人々や組織が密接に連携する必要があり、関連する人々が、それぞれ自殺対策の一翼を担っているという意識を共有することが大事である。また、自殺対策の対象となる要因は、地域共生社会、生活困窮者支援の対象と重複するものも多く、それぞれの施策を一体的に行うことが重要だ」と話した。
●若者の自殺対策について
先進国G7の若者(15~34歳)の死因の上位3位を比較した表を示し、若者の死因の第1位が自殺となっているのは先進国の中でも日本だけだとし、早急な対策が必要な重要課題だとした。
また、平成29年に発覚した座間市における事件の再発防止策をとり、インターネット上の有害環境から若者を守るための対策を急ぐとした。
●自殺対策事業におけるSNS相談事業について
「平成30年度からSNS相談事業についてニーズが高い一方で、電話の相談とは勝手が違うところもあり、ガイドラインの策定など整備を行っている。また、SNSの相談だけで気分が落ちつく利用者もいるが、本当に必要なのは、現実の支援に確実につなげることが必要だ」と話した。
続けて「その具体的な支援につなげる場合を含め、若者が気軽に話すことができるよう、居場所づくり・地域の社会資源につなぐための体制構築モデル事業を実施しているところであるが、現状はあまり多くの自治体から手が上がっているとは言えない。年度途中からの実施でもよいので参加を検討して欲しい」と述べた。
そして、児童生徒の自殺予防に向けたとりくみについては、SOSの出し方教育の実施にあたり、保健師、社会福祉士、民生委員等を活用し、教育委員会とも連携して進めていくことが有効であり、「苦しいときには助けをもとめてもいい」ことが認知されるように、更なる教育の一層の推進を求めると話した。
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