厚生労働省、「地域・職域連携推進ガイドライン」改訂案を提示
8月5日、 厚生労働省は「これからの地域・職域連携推進の在り方に関する検討会」(座長=津下一代あいち健康の森健康科学総合センター センター長)の5回目の会合で、「地域・職域連携推進ガイドライン」の改訂案(以下、改訂案)を提示した。
厚生労働省では平成11年度から生活習慣病予防を目的として地域保健と職域保健の連携の在り方を検討してきた。平成17年3月には、都道府県・二次医療圏への地域・職域連携推進協議会(以下、協議会)の設置などを盛り込んだ「地域・職域連携推進事業ガイドライン」を策定。平成19 年3月に医療制度改革を踏まえ、これを改訂している。今回の改訂は12年ぶり。
ガイドライン策定後、各地で協議会が設置されたが、取り組み内容には差が大きく、地域・職域が協働して健康教育などを実施している協議会がある一方で、形式的に年1回会議を開催するにとどまっているところもあり、協議会の充実が重要な課題となっていた。さらに、ここ10年あまりの間に、特定健診・保健指導、データヘルス計画、健康寿命延伸プランなどの政策が登場し、職域では健康経営の考え方が広まるなど、地域・職域の保健を取り巻く環境は大きく変わってきた。これらのことを背景に、ガイドライン改訂の必要性が高まり、今年の3月14日に「これからの地域・職域連携推進の在り方に関する検討会」が発足、4回にわたり議論を重ねてきた。
改訂案では、地域・職域連携推進協議会の開催にとどまることなく、関係者が連携した具体的な取り組みにつなげるための必要事項を整理している。また、各協議会が運営や取り組みのレベルを把握し、今後どのように発展させるのかのイメージを持つために、地域・職域連携推進協議会の成長イメージを▸レベル1(協議会の開催)▸レベル2(具体的な取組の実施)▸レベル3(自立的かつ継続的な取組の実施)で示した。
改訂案におけるガイドライン全体の構成は以下の通り。
はじめに
Ⅰ 地域・職域連携の基本的理念
1 地域・職域連携の取組の背景と今後の目指すべき方向性
2 地域・職域連携のメリット
Ⅱ 地域・職域連携推進協議会の効果的な運営
1 協議会の目的と役割
2 協議会の構成機関に期待される役割
3 他の健康作りを目的とした協議会等との連携の在り方
Ⅲ 地域・職域連携の企画・実施
1 都道府県協議会での連携事業実施
2 二次医療圏協議会での連携事業実施におけるPDCA サイクルの展開
Ⅳ 具体的な取組に向けた工夫
1 地域・職域連携推進に向けた共通理解
2 健康課題の把握と対策の検討に向けたデータの収集・分析
3 地域・職域連携によって取り組むべき課題と取組事項の明確化
4 対象者別の具体的な取組例
5 具体的な取組を実施するために必要なリソースの確保
【地域・職域連携推進協議会の成長イメージ】
おわりに
参考資料1 他の健康関係の協議会との連携の在り方
参考資料2 地域・職域連携事業取組例
資料1 地域・職域連携協議会(二次医療圏)活動状況報告書
資料2 地域・職域連携推進事業のスケジュール管理の例
現行のガイドラインは、地域・職域それぞれの課題を挙げ、抽象的な言葉で連携の必要性を記すにとどまっている。これに対し改訂案は、さらに踏み込んで、具体的な施策における連携の必要性・可能性に言及している。例えば、特定健診・保健指導やデータヘルス計画が進み、データに基づく健康管理が可能になってきていること、職域で「健康経営」が浸透しているが、資金・人材面に難のある中小企業の場合は地域のサポートがないと難しい状況にあることなどを挙げ、こうした背景の中で、地域保健と職域保健が蓄積してきた方策を互いに提供し合うことの重要性を説いている。
連携のメリットとしては、地域・職域双方のリソースを有効に活用できることを挙げている。また、退職などのライフイベントに柔軟に対応し、生涯を通じた継続的な健康支援が可能になる、職域保健のサービスが届きにくい被扶養者や小規模事業場の従業員が地域保健のサービスを利用しやすくなるなど、これまで支援が不十分だった層へのアプローチが可能になる点を強調している。
Ⅱ 地域・職域連携推進協議会の効果的な運営連携の中核を担う協議会については、「設置すること」に重きを置いた現行のガイドラインから一歩進め、効果的な運営方法をまとめている。都道府県協議会、二次医療圏協議会、市町村の関係、協議会を構成する各機関に期待される役割についても整理し、保険者協議会や地域版日本健康会議など、他の協議会や会議との連携の在り方についても触れた。
Ⅲ 地域・職域連携事業の企画・実施現行のガイドラインでは二次医療圏協議会に関する記述にとどまっていたが、これを都道府県協議会にまで広げた。事業の実施については、①現状分析②課題の明確化、目標設定③連携事業のリストアップ④連携内容の決定及び提案⑤連携内容の具体化・実施計画の作成⑥連携事業の実施⑦効果指標及び評価方法の設定――というPDCAサイクルに基づく展開とし、さらに「順番にこだわらず、協議会で着手しやすい段階から開始してもよい」としている。
評価については、ストラクチャー・プロセス・アウトプット・アウトカムの観点から行うとして、それぞれの評価指標を整理している。ただし、生活習慣病対策などは、すぐには健康寿命の延伸や医療費の適正化といったアウトカムに結びつかないことが多いため、「ストラクチャー、プロセス、アウトプットの観点を組み合わせて評価を行う」とした。
Ⅳ 具体的な連携の取組に向けた工夫地域・職域連携の具体的な取り組み内容についてまとめた部分で、今回大幅に書き換えた。
まず、連携を始めるにあたり、協議会の構成員自身が連携事業の必要性・有用性を理解し、関係者と共有することの重要性を説いている。その上で、データの収集・分析においては、分析に係る労力や時間を節減できるため、レセプト情報、NDB、KDBなど既に公開されているデータの活用を推奨。データを共有するにあっては、利用目的を明確にした上で提供・共有の依頼を行うなどの留意点をまとめた。
具体的な取組事項の設定に関しては、「取り上げた課題の中から取組内容を検討し、実施できそうな具体的な取り組み事項を設定する」と事業の形骸化に釘を刺す書きぶりとなっている。リソースの確保という視点からは、専門職の人員確保、地域のソーシャルキャピタルの活用、事業関係者の資質向上などについてまとめている。さらに、被扶養者、小規模事業場の労働者(自営業者を含む)、退職者など、対象者別に具体的な連携の取り組み例も示している。
8月5日の検討会ではいくつかの意見が出たが、それらも踏まえて、とりまとめは座長一任となった。改訂版のガイドラインは9月上旬に公表される予定。
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