WEB連載

帰ってきた「閑話ケア」……ときどき「講演旅行記」

第9回 光の当て方―というか… (通算 第138回)

ん? 何だ、この題は? 写真の撮り方とかそういった話か?
それがね、全然違うんです。ま、お読み下され。


4月。もう終るけど。
4月号の「閑話ケア」を書いたのは、平成27年(2015年)が最後。この翌年から奇数月の隔月発行になっちゃったから、皆さんと4月にお会いするのはそれ以来9年ぶりという事になる。
9年前はまだ保健師じゃなかった? そうだろうねえ、そんな方も多いでしょうね。
昔はね、「地域保健」はちゃんとした紙の雑誌で、月刊誌だったんですよ。だから毎月毎月バカ話を考えるのはタイヘンだった……というのはウソで、毎月毎月、無駄話を書くのが楽しかったから、隔月になった時はちょっと寂しかった。同時にwebでの「講演旅行記」が始まる事にはなったけど。
時代が移り、今じゃweb版で私は気まぐれ掲載にさせてもらっているから、好き勝手に書いている結果、先月なんか「旅行記」が2回載っちゃった。月2回なんて紙媒体では有り得なかったから前代未聞だ。なので、今年になってこれが4回目! 自由だ。野放しとも言えるかもしれない。どこからか苦情が来ない事を祈る。
ところで、皆さんの所には新人さんが入りましたか? その方たちにも、このwebの「地域保健」や「地域保健ネットサロン」の事、是非教えてあげて下さいね! 雑誌の時みたいに職場で回覧される事がないから、先輩が教えてあげないと新人は「地域保健」と出会えない。
何卒よろしく(^.^)(-.-)(__)


さて、4月。今年は全国的に桜の開花時期が昔に戻った。昔は関東などでは入学式の花だったのに、昨今は卒業式の花になっていたのが、久しぶりに4月に咲く事になった。そんな中、お子さんの卒業式や入園式・入学式を迎えられた方も多いでしょうね。それ以外にも、何か変化はありましたか?
私は、乗り物の変化がふたつあった。まず、還暦の誕生日を過ぎてから乗り始めたクロスバイクというスポーツタイプの自転車から、更に本格的なロードバイクに乗り換えた。クロスバイクはハンドルがまっすぐだがロードバイクは構造が違ってハンドルが「つ」という字みたいな形になっているアレだ。
65歳にもなってと思われるかもしれないが、65歳だからこそ―なのだ。そんな物をいつまで楽しめるかわからないでしょ。だから、まだギリギリ乗れそうなうちに乗りたかったのだ。
もう一つは自家用車。今までの車が10年以上経ったのもあるが、大きな車での狭路通過も苦にならないタイプだったのが昨今はだんだん億劫にもなって。で、最近のアクセルとブレーキ踏み間違い防止などの最先端の技術が搭載された排気量1200㏄の小さな車にしてみた。高齢者向けの車になったような気もして、ちょっと情けないような気もしているが。


皆さんの場合は、そんな事より何より、仕事上の変化が大きい時期ですよね。
新入職の新人さんたち以外にも、色々と環境が変わった方も多いであろう。転職や異動の時期だものね。今までの部署が嫌で、念願の部署に移れてハッピーな人、反対に、絶対行きたくなかった所に配属されちゃって毎日が地獄だと感じている人もいるかな。自分が異動しなくても、周囲の配置換えで戸惑っている方もいるし、組織全体の変更などがあった職場も多かろう。
保健師業務の中での異動でも、例えば母子保健をやりたかった人が精神担当になったらそれが不満と思う方もいよう。
だけどね、精神不安定な母親はいくらでもいる。精神は担当じゃないって切り離せる事じゃない。統合失調症の方が母親になる例だっていくらでもある。母親になった後で病気になる人だって沢山いる。
母子の事例で訪問したら、認知症の祖父母が同居していて、その影響が母子を強く苦しめている、なんて事もある。どれもこれも切っても切り離せない事が多いのだ。それが保健師の臨床の宿命。
だから、まず、保健師業務と言える中での得手不得手・好き嫌いは、少しずつ克服しよう。どれもが無関係ではないから、経験や学びは、必ずあなたの役に立つ。保健師として人間としての成長をさせてくれる。
そんな場合よりも、
「こんなの保健師の仕事じゃない」
「こんな事やりたくなかった」
と思っている方々に、今回は語り掛けようかな。


昨今の分散配置は、正直言ってどうかと思う事もある。色々な課に保健師が配置される事は良い面もあるが、人に関わらずに書類の仕事ばかりしているような配置もあって、そんな場合は特に疑問符だらけに感じる事もある。
人と関わってこそ保健師であって、書類の入力ばかりみたいな仕事じゃ、面白くないし不満が出るのも当然だ。私の仕事に置き換えてみれば、色々な問題を抱えた相談者と話す仕事を取り上げられて、例えば論文を書けと言われたら、私なら、辞める。給料を10倍にするから、数字の入力作業を一日中していろと言われても、辞める。
そう。だから、そんな方はさっさとお辞めなさい―という話じゃないから、結論を急がないで下され。
読者の多くを占めるであろう公務員という立場の保健師の場合、上に書いたような私の例とは事情がだいぶ違うのだ。
分散配置の結果、人に関わらずに書類の仕事ばかりするような部署への配属は疑問と感じる事を先に書いたが、具体的には介護保険や障害認定区分の手続き系の仕事になって、制度などの勉強と書類仕事ばかりで住民との接点がないという人もいるだろう。特定健診や障害者福祉、児童福祉の領域などでは、また学ぶ内容が違うし、法律ばかり学ぶような部署もあったりする。
嫌だよね。よくわかる。保健師業務らしくないし、不慣れな用語ばかりだし、第一、面白くない。事務方の人の方が絶対に向いている職務もある。
こんな時はどう考えれば良いか?
ちょっと見方を変えてみよう。表題の「光の当て方」っていうのは、そういう意味だ。
すると、こんな風に思えるかもしれない。実はね、もしその部署に来なければ、学ぶ機会も無かった事を学ぶチャンスなのだ。母子の訪問ばかりしていたら介護保険制度なんて知る機会もないけど、今、それを学んでおいたら、後に保健センターに配置された時、あなたは介護保険の制度にも詳しい保健師になっているのだ。さっき例えに出した認知症の祖父母と同居していて、それが影響して母子の問題が起きているケースのような場合、往々にして介護保険を利用していなかったりする。そんな時、介護保険を熟知したあなたは、それを説明する事が出来るし、制度の利用が母子を救える事を家族みんなに誰よりも上手に説明できるはずだ。
そう。一見「保健師らしくない」仕事でも、そこで学ぶ事が、どこかで必ず生きるのだ。
今の退屈を見るより、今後役に立つかもしれない事に気づくと、それだけでも気持ちが軽くなるはずだ。
サイクリングに行って何十キロも走って疲れてきた時、
「ああ、まだあと5キロもある、上り坂もある、こんな暑い日にこんな距離走るんじゃなかった」
などと現状を悔いながら乗っていると辛くて苦しいばかりになるが、
「そうだ! 家を出る前にいつもより高級なビールを冷蔵庫に入れてきたんだ。よ~し、帰ったらシャワー浴びて飲むぞ!」
と、帰宅後のお楽しみに目を向ければ、急に気持ちが明るくなったりする。
それとよく似ている気がする。


物は、光の当て方で見え方が変わる。夏の夜の肝試しで、懐中電灯の光を顔の下から当てるって、よくやったでしょう。通常、光は地球上では上から当たる。それを見慣れているから、下からの光には別物に見えるような効果が発揮されるのだ。
見る角度を変えても、見え方が変わる。円柱は横からは長方形に見えるが上から見れば丸だ。
どこに光を当てるか、どこに立って、状況を眺めるか。今の立ち位置の中で悲嘆していても何も変わらないが、ちょっと角度を変えて見たりする事で、気持ちの切り替えはできる。
そういった事を是非工夫してみて欲しい。つまらない事務仕事かもしれないが、学びはきっとあるし、その結果見えてくる事も多々あるはずだ。
私も、高齢者向けの安全性能が付けられた車を、情けないと思わずに楽しもうと思っている。ちなみに、ロードバイクの方は既に楽しんだが、早速、今までとは違う感じの全身の筋肉痛になって、ハンドルの構造の変化の影響にビックリしている。

著者
藤本裕明(ふじもと・ひろあき)
分類学上は霊長目ヒト科の♂。立場上は一応、心理カウンセラーに属する。自分の所の他、埼玉県川越市の岸病院・さいたま市の小原クリニックなどで40年以上の臨床経験があるが、年数だけで蓄積はおそらく無い。

桜が咲いて菜の花も咲いて、ウグイスはまだまだヘタな鳴き声で、ヒヨドリがそれをからかうように騒ぎ立てる。今のところ、良い春だ。皆さんの所はどうかな。このまま穏やかな一年になって欲しいが、すでに夏日とか真夏日とか言っているので、暑いのが苦手な私には、先が思いやられる…。

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