WEB連載

帰ってきた「閑話ケア」……ときどき「講演旅行記」

第11回 う~ん、困った… (通算 第140回)

岐阜県の講演旅行記を、やっと書き終えた。
近頃、時間が経つと忘れるのが早くて…。写真を見れば思い出す事はあるが、写真が無いものだと思い出すのが困難である。メモを取れば良さそうなものだが、メモを無くすし、メモ取った事を忘れる事もある。
しかも、本当に忘れちゃったものは忘れたのかどうかさえもわからない。当たり前と言えばそれまでだが。う~ん、困った…。
岐阜の懇親会の時の話だって、もっといろいろお話ししたはずだ。懇親会以外の時にもいろいろ見聞きしたはずなのに…。
あ! 大事な話を思い出した。岐阜市にはデパートの「高島屋」があったが、7月一杯で閉店だそうだ。そうなると、デパートが無い県になる。全国で4つ目だって。
あれ、でも、これ、どっちかっていうと寂しい話だから、思い出して書かない方が良かったかな…。
ちなみに、調べてみたら、山形、徳島、島根に続いての4つ目だそうだ。
もっとも、旅行記に書いたように、岐阜市は名古屋市がすぐ近くなので、岐阜市周辺の方はそんなに困らないかもしれない。
ところで、デパートって、皆さん行きますか? 昔は、おしゃれをして出かける所。そして、私の中ではかなり明確な基準があって、その基準を満たさないとデパートと認めない。 「エレベーターガール」が居る所、それすなわちデパート―だったのだが、近年、どんどん減っているようだ。う~ん、困った…。岐阜どころか、デパートそのものが無くなってしまう。


まあ、そんな事はどうでも良い。それより、この暑さ、どうにかならないものか。暑いのが苦手なので、困ったなんていうレベルではない。毎日が拷問のようだ。35℃を超える猛暑日がこの夏はどれくらい観測されるのだろうか。きっと40℃を超える日も増えるのだろうな。私が生きている間には45℃超えなんていう日も出てくるかもしれない。「猛暑日」以上を何て呼ぶ事になるんだろう?
「酷暑日」とか「炎暑日」かな。想像するだけで地獄のようだが、実は2年前に、既に日本気象協会では40℃以上を「酷暑日」って呼ぼうなんて言ってたらしい。どうでも良いようなクダラナイ話を書いているつもりだったのに、一応調べてみたら、もう本当の話になっていたなんて…。う~ん、困った…。


暑さの話はやめよう。頭がクラクラしてくる。涼しい話でもしたいが、昔っから夏は怪談話と決まっている。ゾクッとするから暑さを忘れる―という説もあるが、涼しくなんかならないですよね。
夏はお盆もあるから霊が帰って来たりするし、真冬に雪の降る中「うらめしや~」じゃ、幽霊も寒かろう。厚着した幽霊もねぇ。褞袍(どてら)やダウンジャケット着てる幽霊とかマフラー巻いてたり手袋してたりっていうのも絵にならないし、やっぱり夏が似合うかな。
落語にも怪談話があるが、私が好きなのはお菊さんの話。「お菊の皿」とか、「番町皿屋敷」っていう演題になっている。大事な皿を割っちゃって、井戸に身投げした話とか、話の出だしはいろいろなパターンがあるが、私の記憶にある基本パターンはこうだ。
美人の女中のお菊さんに横恋慕した殿様が、相手にしてくれないお菊さんを逆恨みして、10枚の中の1枚をワザと隠して責任を追及した挙句、なぶり殺しにしてお屋敷の井戸に投げ捨てちゃう。
が、その後、お菊さんは幽霊となって現れ、「いちま~い、にま~い…」と皿を数え、9枚まで数えたら、殿様は呪い殺されてしまった―という怪談話を聞いた若者達が、今もそのお屋敷がそのままあると知り、幽霊見たさに行く事にした。でも、9枚数え終わるまで聞いていると、その殿様と同じように呪い殺される、8枚まで聞いても重病になるという噂。じゃ、安全のために6枚で逃げようと取り決めて。
怖いが酒をひっかけた勢いで行ってみると、出た! しかも、このお菊さんがたいそうな美人! 怖いが美人。ヒマな江戸っ子たちの間に噂は広まり、観客は毎晩毎晩どんどん増えて行く。
それを知った興行主がお上に許可をもらって、お屋敷を整備し、観客席を設け、一晩いくら、特等席だといくら―なんて、だんだん妙な方向に話が進む。周辺には多数の出店も出るようになり、夜になると大賑わい。お菊さんも備えられたお菓子なんかをどんどん食べて、青白い幽霊だったのがぽっちゃり健康的な幽霊になっちゃうし、どんどん芝居がかった喋り方になっちゃって、最初とは別物になっていく。
久々に見に行った最初の若者達は呆れちゃったが、それでも6枚で帰ろうとすると、出口が大混雑! その内「しちま~い、はちま~い」ってカウントがどんどん進んで行ってしまう。
これじゃ死んじまうって焦っていると「きゅうま~い、じゅうま~い」とお菊さん。 あれ? 死んでないし、10枚?? お菊さんは更に数え続け11枚12枚…そして、とうとう「じゅうはちま~い、おしまい」。
「やい、お菊さん、どうしたわけで18枚なんでい?」
「たまにはあたしだって休みたいのよ、だから今日は2日分。明日はお休み」


しかし、落語の発想はすごい。怨念で主人を呪い殺す幽霊話がこんな風になっちゃう。話し手によっては、今の「推し活」など、アイドル事情を取り入れちゃって、古典落語なのに現代人が十分に楽しめる話になる。その自由さも落語の素晴らしさだ。
あれ? ところで私は、何でまた落語の話をしているんだろう? 落語が好きだから仕方ないか。そういえば、過去にも落語を紹介したなぁ。自分自身で落語風の小話を書いた事もあったなぁ。
あ、今気づいたが、お若い皆さんは「落語」って読めますか? 「おちご」じゃなくて「らくご」です。ちなみに、落語をやる専門の施設を「寄席」と言うが、こっちは読める? 昔、私の弟子が「よりせき」と読んでびっくりした事があったが。正解は「よせ」ですよ。
自分の世代では常識だと思っていた事がどんどん常識じゃなくなっていく。う~ん、困った…。
もうひとつ。この連載の題名の「閑話」はわかりますか? 「かんわ」と読み、「無駄話」というような意味。だから、「閑話ケア」というのは、どうでも良いようなのんびりした無駄話をして、疲れた保健師の心をケアしようって事。
だから、そもそもは「保健師のための閑話ケア」が正しい連載名だった。
ところが、雑誌が休刊になり、いったん連載が途絶えてしまった。その後、このWeb版に戻ってきたので「帰ってきた閑話ケア」が、現在の名称というわけだ。Web版から読み始めた方も多いでしょうから、その人たちには意味不明な題名ですよね(;^_^A どこから帰ってきたの? って感じで。
そろそろ、本来の連載名に戻しても良いような気もする。どうしよう。う~ん、困った…。


それはともかく、上述のように「どうでも良いようなのんびりした無駄話をして、疲れた保健師の心をケアしようって事」だから、このように、どうでも良いような話が堂々と書ける。
なのに、まじめな読者は、こんな文章からも、何かを読み取ろうとする事があるらしい。どうでも良いような書き方をしているけれど、こんな中にも何かが示唆されているのかもしれない、なんてね。
う~ん、困った…。何か示唆しなくてはいけないだろうか。いやいや、そんな風に考えないで読み流す方も多いだろうし、無理して意味がありそうなフリをする必要もあるまい。
それにしても、今回、私はいったい何を書きたかったんだろう? 何か書かなくちゃと思って、書く事が思いつかなくて、「う~ん、困った…」って思って、困ったまま、もう字数が終わろうとしている。
こんな事なら、最初から困る必要はなかったではないか。
困り事とか悩み事というのは、実はこんな程度の事が案外多いんじゃないかな。
あれれ? 何か示唆的な終わり方になりそうだぞ。そんなつもりじゃなかったのに。
う~ん、困った…。

著者
藤本裕明(ふじもと・ひろあき)
分類学上は霊長目ヒト科の♂。立場上は一応、心理カウンセラーに属する。自分の所の他、埼玉県川越市の岸病院・さいたま市の小原クリニックなどで40年以上の臨床経験があるが、年数だけで蓄積はおそらく無い。むしろ年々わずかな蓄積さえも削れて来ている気がする…。

相変わらずの災害列島。もっとも、日本のみならず世界中の現象だが。戦争の舞台になっていないだけ、日本はマシかな。自然災害にしても感染症にしても、保健師の皆さんが大活躍を余儀なくされるような大災害だけは起きないで欲しいものだ。「困った」じゃすまされない災害が多過ぎて、21世紀前半なのに世紀末的な感じ。本当に、困った…。

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