WEB連載

帰ってきた「閑話ケア」……ときどき「講演旅行記」

第13回 講演旅行記-東京都 江戸川区(通算 第142回)

江戸川区の講演は、約1年前の2023年10月29日が発端だった。
その日は、地域保健編集部主催の「藤本裕明さんのハイブリッド講演会『支援職のメンタルヘルス』」が実施された日である。オンラインと来場とのハイブリッドだ。
講演の終了後もしばらくラインは繋がれていて、参加者の一部の方々がオンラインや会場に残ってお喋り。
中には、奄美大島に伺った時の飲み友達のH保健師や、休刊の後、ねぎらいのご連絡をくださったものの直接はお会いした事のない岡山のT保健師などもいて講演の本題とははずれたお喋りに花が咲く。
残った中に、奄美のHさんと同姓の江戸川区のH保健師がいて、更に江戸川のHさんが岡山大学のあるプログラムに関心を持っていて岡山のTさんとその話題になり、更に更に、会場参加者の中央区の介護施設勤務の男性保健師T君が、そのプログラム関連の情報を持っていて……と、何だか、意図せぬ方向の話題で盛り上がったりもしていた。
講演会の後も、編集部のMさんも関わって岡山と江戸川の連絡があったりしていたようだが、その内、江戸川のHさんから、私にも直接御礼の連絡が来た。
「講演会の後、しばらくその熱が冷めずに、翌日職場の先輩にも話を聞いてもらい、なんとか先生のお話を(というか、先生のお姿を!)仲間の保健師たちに届けたい、と熱く語らせてもらった次第です。」
といった調子の文章で、文末が、
「コンゴともよろしくお願いいたします。(最近、コンゴ共和国難民母子の記録ばかりしていたら、パソコンの変換までコンゴ化してしまいました。)」
と、何となく熱いだけじゃなくて面白そうな人だなと、思った。ご自宅からも職場からも1時間半程度で相談室まで来られる距離だという事もわかった。
その後、とんでもない事実が判明。まだ紙媒体だった頃の2021年7月号の「奇人変人」に登場する私の親友の一人で奇人変人の代表格である大井が理事長を務めている精神関係のNPO法人が、江戸川区を拠点としていたのだった。すっかり忘れていた。いや、封印していたのかもしれない…。
彼はここ何年も、髪も髭も一切切るのをやめ、どうなるか実証実験をしている。そして、ラーメンを食べる時に伸びすぎた口髭を留める金具を工夫したと自慢するような奴で、到底凡人の私には理解できない生き方をしている。別の言い方をすれば、どう見ても法人の代表なんかではなく、少なくとも外見上は駅の地下道や公園に寝そべっているような人にしか見えない。そのため、江戸川区ではそのアヤシイ風体から「仙人」と呼ばれているらしいが(仙人に失礼である)、しばらく前に、まだ彼の存在を知らなかったHさんが保健所の窓口に現れた彼をケースだと思って対応して、先輩に注意された―などという過去の事件も判明した。そんな奇妙なつながりまで発覚し、結局、後日お会いして、友人として詫びたりもした。
そんなわけで、今までご縁が無かった江戸川区が急に身近になり、Hさんは何とか私を江戸川に招こうと画策をし始めたらしい。
しかし、公的に私を呼ぼうとすると、予算の問題やら何やら、色々と課題が出てくる。そこで、後輩のK保健師の提案で、区の保健師の自主的勉強会「みかんの会」で、業務時間外に呼ぼうという事になった。となれば、会場料や講師料の捻出が次の問題になるが、何せ親友が迷惑をかけている保健師たちに私は詫びに行かなくてはならないような立場でもあるから、参加保健師の負担が3ケタにおさまるようにお願いし、10月2日の夜に開催と決まった。
Hさん、Kさん、Tさんがいろいろ話し合った結果、こんな素敵なチラシも仕上がった。

編集部に許可をもらって、イラストも使わせてもらったんだと。
これだけ「地域保健」に関係しているのだから、当然「講演旅行記」の対象になるのだが、講演当日、私は午前中外勤の日。なので、その日の講演旅行は無理。
そのため、平日休みの日である1か月前の9月5日木曜日に講演旅行と打ち合わせをする事になり、Hさんが半休をとって案内してくれる事になった。


先に断っておくが、今回の写真は9月5日と当日の10月2日の撮影分が都合により混在している。それと、私じゃなくてHさん撮影の写真も混ざっている。

さて、9月5日の昼過ぎ、新小岩駅に到着。

ここは実は葛飾区なのだが、江戸川区への入り口のひとつ。Hさんがマイカーで迎えに来てくれる。酒々井町の時もそうだったが、皆さん高齢者に優しい。さすが保健師である。しかし、夜は後輩も合流して打ち合わせという名の飲み会というのに車はどうするのか心配だったが、ご主人に引き渡す算段になっているとの事で、ひと安心。
講演会場になるグリーンパレスに連れて行って頂き、

会場とは別フロアの郷土資料室を見学。

撮影して良いかどうかはっきりしなかったので内部の写真は撮らなかったが、酒々井町の時にも話題にした「板碑(いたび)」などの展示もあって、あれ、酒々井と板碑つながり-って思った(板碑については、酒々井町の井戸のあたりの説明を見てくださいませ)。板碑そのものの存在は前から知ってはいたが、2度続けて遭遇したため、色々調べ、鎌倉武士の支配地域のみに存在するとか、この2か月でだいぶ詳しくなった。酒々井も江戸川区も古くは下総の国。でも、川の流域の関係で、板碑の形式が違う事なども知ったが、皆さんは関心がないだろうからこの辺でやめておく。
近くで食事をして、老朽化のため移転予定の区役所を見て、次の目的地へ。

次の目的地は、善養寺(ぜんようじ)の、国の天然記念物「影向(ようごう)のマツ」。

もっと近づくと

でも、ちょっとわかりにくいですよね、これが1本の松だなんて。
ググっと中に入って色々な角度から撮った写真をいくつか。

そして、上から見ると、

つまり、1本の松(クロマツ)が四方八方に枝を伸ばしていて、その枝も古くて重いから沢山の支柱で支えているって事。説明板によれば、樹齢600年以上。根元付近の樹周4.5m、主幹の樹高8m。地上2mで四方に枝が伸びて、東西方向約31m、南北方向約28mと広がっているそうだ。こんな松は初めて見た。600年前と言えば室町時代かな。その後の戦乱や戦争を、良く生き残ったものだ。
四国、香川県には「岡野松」という立派な松があったそうで、過去にはどっちが日本一かで論争が起きたらしい。昭和56年に大相撲の立行司が引き分けと裁定し、当時の相撲協会理事長の春日野親方が、それを推し、「双方を東西の横綱に推挙する」と言った事で、決着したそうな。記念のプレートもあった。

岡野松は1993年に枯れてしまい、こちらの松も、何度となく同様な危機があったが、地元の方々の応援で立ち直り、2011年9月21日には、国の天然記念物にも指定されたそうだ。くしくも私の誕生日である。都内にも、まだ知らないこんなすごいものがあるんだなと、改めて思った。


次に向かったのは、「しのざき文化プラザ」。都営新宿線篠崎駅に直結した区の施設で、「江戸川区の歴史や文化、産業などを様々な形で紹介するギャラリーや、江戸川区立篠崎図書館、江戸川総合人生大学および、伝統工芸カフェ"アルティザン"で構成される複合文化施設」だそうだ。
訪問理由は、「江戸扇子」の調達。
江戸川区には江戸扇子の職人さんがいるというのをテレビで少し前に紹介していて、それを見てみたかったのだ。置いていそうな所という事で立ち寄ってもらった次第。私は扇子が好きで、講演の時には落語家と同じ白扇を使用しているし、普段使いの物も浅草などの専門店で買う事が多い。
で、「伝統工芸カフェ」で入手したのが、これ。

「隠れ上手な出目金」という商品らしくて金魚の養殖も盛んなこの地にふさわしい絵柄。
出目金は、ここですよ。

なかなか風情がある逸品だと思う。
お次は「一之江名主屋敷(いちのえなぬしやしき)」。
一之江という地区にある旧名主、田島氏の屋敷だった所だ。江戸時代後期の物らしい。
長屋門の外側から中を見た風景。

長屋門ってわかります? 門が、ただの門じゃなくて、文字通り長屋になっているのだ。
敷地の内側から門を見た様子。

ね、住める部屋がある。門だけで我が家より大きい。この部屋は、家臣や使用人が住んだ他、物置や作業部屋として使われた所。こんな門があるっていう事はそれだけで、偉い人っていう意味。名主っていうのはその集落の代表者みたいなもので、関西では庄屋と呼ぶ。
屋敷本体は逆さL字型で、出入口は次の写真の真ん中のL字の継ぎ目の辺りにある。

右の方は土間や台所、左の方が居室になっていて、入場料払えば中も見学可。

庭にも出る事が出来て、

その周囲には広い屋敷林もあった。

庭から見ると、平成18年に葺き替えられた重厚な茅葺き屋根が見事。

少し離れた所には民具などの展示棟があった。

都営新宿線瑞江(みずえ)駅の近くまで行って、Hさんの車とはここでお別れ。後にご主人が引き取りに来るそうだ。
そこから都営新宿線に乗って2駅、船堀駅で下車。
この都営新宿線、乗った記憶がない。ずっと東京近郊暮らしでも、生活圏行動圏からはちょっと離れていて、一度も乗った事がないかもしれないのだ。案外、こんな所が他にもあるかも。
船堀駅を降りるとすぐにあるのが、最終目的地。

通称「船堀タワー」、正式名称は「タワーホール船堀」で、区の施設だそうだ。なんと、東京スカイツリー、東京タワーに続いて、一般公開している中では都内3番目の高さを誇る3大タワーのひとつだそうだが、知らなかった…。高さは115メートルだから、スカイツリーの634メートルとか東京タワーの333メートルに比べるとかなり低い数字だが、それでも、無料で見晴らしの良い展望台に上がれる貴重な所だ。
南を見ると、東京湾や

少し東には有名なテーマパークも見える。

西北西方向はスカイツリー、

西南西には東京タワーとその上空を羽田に向かう飛行機。

真下には地上に出ている地下鉄船堀駅、

と、なかなかの見晴らしであった。
最後はバスで、ふりだしの新小岩に戻って、KさんTさんと合流、八丈島料理の店で打ち合わせという名の飲み会。Kさんは大井との関わりが多かったらしくて、ひたすら恐縮…。魚料理は美味しかったが、八丈島と言えば大好物のクサヤなのに、品切れだったのが残念。
しかし、半日かけて、なかなかのボリュームのある講演(下見)旅行だった。


そして一月後の10月2日の夕方。さすがに10月なら涼しかろうと思っていたが、何とも蒸し暑い日。新小岩駅から暑さに負けてバスで3つ目「江戸川高校前」下車。香取神社に立ち寄る。

香取神社は、私の住む地域には存在しない。下総の一之宮の香取神宮の流れで、埼玉だと東部にしか存在しないのだ。なので、遅ればせながら、この地に出入りするご挨拶というわけ。
そして、Hさんたちが働く江戸川保健所(中央健康サポートセンター)を見物。

ちょっと中にも入ってみるが、お仕事の邪魔もできないので特に誰にも声もかけず早々に退散し、歩いて会場に向かう。
早く着き過ぎて、演者が一番に到着という妙な事態に。皆さんまだお仕事中だから仕方がない。そして、特別参加の「地域保健」編集部のMさんもいらして、18時半過ぎてから講演開始。Mさんからも、一言ご挨拶があった。
この会は、総勢約100人の区の保健師の約3分の1の28名が、区の四方八方から平日の業務時間外に自腹で参加してくださったのだ。「地域保健」という雑誌の存在感、Hさん達の苦心した呼びかけ、そして何よりも皆さんが熱心なのだ。敬服する。
仕事している証拠写真もある。

はてさて、そんな参加者の皆さんに対して少しは役に立てたのだろうか。後日頂いたアンケート結果では、まずまずの評価だったが、皆さん優しいからなぁ…。
終了後、Mさんも含め8人で懇親会。そして、新小岩の駅前で交番のお巡りさんに、記念写真撮影をお願いして解散となった。日本のお巡りさんも優しい。懇親会では隣になった男性保健師Y君が、学生時代から「地域保健」を読んでいて、「閑話ケア」もご存じだったそうな。ありがたい話だ。会場でも終了後に声をかけてくださった読者の方がいらしたし、読者って本当にいるんだなって、こういう時に実感する。
江戸川区の皆さん、そう遠くはないので、またお会いできると良いですね♪

著者
藤本裕明(ふじもと・ひろあき)
分類学上は霊長目ヒト科の♂。立場上は一応、心理カウンセラーに属する。自分の所の他、埼玉県川越市の岸病院・さいたま市の小原クリニックなどで40年以上の臨床経験があるが、年数だけで蓄積はおそらく無い。
やっと秋らしくなってきて、10月中旬に5か月ぶりにロードバイクに乗った。控えめに30キロだけ走ったが、酷暑の間の運動不足がたたって、クタクタになった。本当は江戸川区の葛西臨海公園まで往復80キロ超くらい走れるようになりたいが、江戸川区内で行き倒れになっても恥ずかしいので、当面、挑戦はやめておく。

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