WEB連載

帰ってきた「閑話ケア」……ときどき「講演旅行記」

第14回 ヘビの話 (通算 第143回)

去年の正月ほど、衝撃的な正月もなかったが、さて、今年は大丈夫だろうか? 当然、この原稿は正月前に書いているので、今の私には知る由もないが、皆さんが明るく正月を迎えておられる事を前提として、まずは、おめでとうございます。
さて、巳年(みどし)。ヘビだ。ヘビは飼いたいが飼った事はない。うちの近所にも何種類か見かける事があるが、じっくり眺めようとしても、サササッと動くので、なかなか深い観察もできない。まだまだかなり若い頃に、当時の家の裏にあった竹藪をぼんやり眺めていたら、何かが動いている、
「あ、おもちゃの電車が走ってる」
と、ぼんやりと思って数秒後、
「ん? 竹藪の中をおもちゃの電車? え??」
と、目を凝らしたら、蛇の模様だった―という間抜けな思い出が残っているが、自分で捕まえたのは「ヒバカリ」という小さなヘビくらいか。嚙まれたらその日ばかりの命―という物騒な意味の名前だが、実際には毒はないらしくて、そうだなぁ、割り箸よりは太いけど長さも30センチくらいの子ヘビだったな。かわいいのだが、エサが生餌になるから、飼育が難しいので断念して放した。
他には、動物園のふれあいコーナーで、アオダイショウやシマヘビを触らせてくれる所があって、娘達が小さい頃には時々首や腕を這わせた事はあるが、その程度のふれあい経験しかない。ちなみに娘たちも嫌がる事はなく、特に次女はヘビとフトアゴヒゲトカゲがお気に入りであった。


巳は十二支では6番目。方角ではだいたい南南東、時刻では朝の10時前後くらいを示す。「巳」という文字にも他の十二支同様、本来「ヘビ」という意味はない。庶民が覚えやすいように、動物と紐づけただけ。
ヘビの漢字は「蛇」だが、これから虫ヘンを取った「它」だけでも、ヘビと読むらしいが、馴染みはないよね。
さて、ヘビ。これは、実に謎の多き生き物である。去年の「辰」つまり「竜」と違って実在するのだが、不思議がイッパイ詰まっている動物だ。
まず、足がないのに、どうやって歩くのか。ん? 歩くんじゃないか?? ま、良い。どうやって移動しているのか。それに、細い体をしているが、内臓はどうなっているのか。足があるのに「カナヘビ」って名前の生き物がいるが、どうして「ヘビ」と付くのか…。
皆さん、不思議に思うでしょ。知りたいでしょ。
…ん? 「考えた事ない」みたいなカオしている人がいるなぁ…。あのね、もう少し、いろいろな事に関心を持った方が、世の中、楽しいですよ。私はよく物知りだと言われるのだが、世の中のこういった不思議と出会うと、つい調べたくなる性分なのだ。多くはすぐ忘れちゃうけど(;^_^A
ヘビっていうのはともかくそんな不思議な生き物だから、洋の東西を問わず、神話や伝説に多数登場している。有名な所では、聖書のアダムとイブの話にも出てくるのはご存じかな? 悪魔の化身のヘビが
イブをだまして禁断の木の実を食べさせちゃうのね。結果的に神様との約束を破っちゃったわけで、アダムとイブはエデンの園から追い出されちゃった。
ギリシア神話のヘビは、アスクレピオスという医学の神様の杖にいつも巻き付いていて、今でも「杖に巻き付いたヘビ」は世界中で、医学や医療を表すシンボルマークなどになっている。日本でも、救急車にそういった印が描かれていますよ。世界各国の救急車にもあるらしいけど。皆さんも見た事ないかな? 機会があったら探してみてほしい。

イラストの右下のマークが使用されている事が多く、これは「スターオブライフ」という名称だそうだ。 詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
https://www.star-of-life.jp/index.html

あと、この神話ではメデューサも有名。髪がヘビで、その姿を見ちゃうと石になっちゃうという怪物。
現代の有名な海賊漫画にも登場人物にヘビのお姫様がいて、敵を石にしちゃう能力を持っているが、そのモデルだな、多分。漫画では相当魅力的な美女に描かれているが、怪物メデューサも、元は美少女だったのだ。
日本神話では、何といってもヤマタノオロチかな。漢字表記は何種類かあるようだが「八岐大蛇」が一番わかりやすいか。八つに分岐している大蛇って事。頭が八つあって尾も八つある。想像してみると、実に不格好であり、これをヘビと言うには無理があるような気がするが、相当恐ろしいモノには違いない。
村にやってきては娘を食ってしまうというとんでもないオロチで、それを聞いたスサノオノミコトは、今度食べられちゃう順番の娘を嫁にくれるならヤマタノオロチを退治すると約束。見事退治して、その尾っぽからスゴイ太刀を見つけた。それが「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」。今も天皇家に伝わると言われる三種の神器のひとつだ。
現代でも、白ヘビは神の使いとか、ヘビの脱皮した皮を財布に入れておくとお金が溜まるとか、いろいろな伝承が残っているし、やはり、ちょっと特殊な生き物と言えよう。


さて、その不思議さの根源は何か? 何といっても手足が無い事が最大の理由であろう。魚も手足は無いがヒレがある。ヘビはな~んにもないのだ。一部のヘビには後ろ足の痕跡が残るものもあるものの、基本的には頭から尻尾までズドーンとしてるだけだ。
人間がヘビを恐れる理由の一つがその姿で、手足が無いから自分と重ね合わせる事が出来にくいから―という説を聞いた事があるが、まあ、確かにそうで、トカゲならば腹ばいになって手足を動かせば、尻尾が無くても何となくトカゲ気分を味わえる気がするが、ヘビは無理。両腕をまっすぐ伸ばして体にくっつけてもヘビになった気がしない。それにその状態では体をくねくねしても前進も後退もできない。
やってみて下され。すぐにわかるから。
そこで、さっきの疑問その1。ヘビはどうやって移動しているのか。
ヘビは泳ぎも上手だが、それは身体を左右に波打たせる事で説明ができるだろう。ただ、ウミヘビのように泳ぎが上手いヘビもいれば、苦手なヘビもいるらしい。私はアオダイショウらしきヘビが川を泳いで渡っているのを何度か見た事があるが、おそらく肺に空気を入れて沈まないようにして、泳ぐ。器用なものだ。
地面での移動にも、体を波打たせる動作は利用されているわけで、文字通り「蛇行」しているわけだ。更に、地上の場合は、お腹側が地面の凸凹に対応して、変形して、ボルダリングの選手が突起物を利用して移動するのと同様、微妙な地面の突起を体表面でつかまえては押し出すような動きをしているらしいのだ。だから岩を登ったり木を登ったりもできる。言うなれば、お腹全面に変幻自在の小さな手指が無数にあるようなもので、それを利用して何かにつかまったりひっかけたりしているわけだ。
細い体だが、爬虫類だから肺呼吸をしているし、心臓、肝臓、胃、腎臓、腸など、臓器も人間と大きく変わらない。腸は人間も細長いから、ヘビの体でも収納できるだろう。胃も細長くても大丈夫そうだし、心臓や膵臓や胆のうなどは大きな体積を必要としなさそうだから、大丈夫。肝臓も長細くても大きさを確保できれば大丈夫だろう。
一番気になるのは肺だ。人間のように左右に並ぶとしたら、肺の所だけ不格好に太くなって膨らんだりしぼんだりを繰り返しそうだ。
だが、実際は、多くの種で左肺は退化して、右肺のみが細長くなっているのだそうだ。
哺乳類よりも爬虫類の方が代謝が低いので、呼吸の量や回数は少なくても大丈夫だから、こんな進化も可能だったのだろう。
残った疑問は「カナヘビ」。トカゲの仲間なのになぜ「ヘビ」か。どう調べても次の2説になる。

①体が金属的な色に見えるので金蛇(かなへび)
②愛らしいから親しみを込めて愛蛇(かなへび)

「ヘビ」と付く理由は、近縁のニホントカゲに比べて尻尾が長くスラっとしていてヘビっぽいからだそうだ。今ひとつ、面白みに欠けるが仕方ない。本当は手足を引っ込めてヘビみたいに変身もできる、とかだったら面白かったのに。そんなの見てみたかったなぁ…。
あるいは、見る人が細長い体つきを見て、
「あれ? これ、ヘビかな?」
「そうかな?」
って、みんなが口をそろえて「かなかな」言う。
だからカナヘビ…。これで、どうかな?


巳年、どんな一年になるのだろうか。ヘビーな年ではなく、今年こそ穏やかな1年を願う。

著者
藤本裕明(ふじもと・ひろあき)
分類学上は霊長目ヒト科の♂。立場上は一応、心理カウンセラーに属する。自分の所の他、埼玉県川越市の岸病院・さいたま市の小原クリニックなどで40年以上の臨床経験があるが、年数だけで蓄積はおそらく無い。むしろ、蓄積より忘却が増している気がする。

「正月(門松)は 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」は、あの一休さんが詠んだ歌とされている。真偽はともかく、歳をとってくると本当に身にしみる歌だ。昔は数え年といって、誕生日じゃなくて正月に1歳トシをとったわけで、冥土っていうのはあの世の事。
まだ、冥土は見えないけど、確実に近づいているんだよなぁ…。はぁ…。

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