地域保健WEB連載

なな先生のことばの発達教室

第10回

繰り返しのある遊び――「ことばのシャワー」や「たくさんの読み聞かせ」に代わるアドバイス

今回のキーワードは、「繰り返し」です。 幼児さんの発達を支える環境づくりにおいて、ものごとが繰り返されることはとても大切です。

繰り返し――状況やことばの理解を助ける枠組みに

たとえば、日常生活のルーティン。
登園や登校の時間、3度の食事とおやつの時間、寝る時間。1日のなかで同じ時間の流れが繰り返されていくことは生活を支える構造となり、秩序を与えます。
生活習慣はことばの発達とはやや遠い関係なのでは? と思われてしまいそうですが、そんなことはありません。特に、ことばを理解するためには重要な手がかりとなります。ことばの理解が進むことは、ことばの獲得に必要な力のひとつです。毎日繰り返される枠組みがあることで、言語発達の土台となる身の回りの状況の理解が進みます。

ルーティンの枠組みを手がかりに、そこで話される会話のパターンを理解することにつながります。

【例】 時間:朝|場所:玄関|状況:お別れする・いなくなる|話されることば:「バイバイ」

毎日、同じ場面状況が繰り返されることで、ものの名前にも注目が向きやすくなります。

【例】場所:洗面所|状況:抱きかかえられて手を洗う|話されることば:「おてて」

生活習慣というスパンが長く大きなサイクルの繰り返しも大切ですが、幼児さんとの遊びのなかで短いスパンで反復される「繰り返し」についても考えてみましょう。

「いないいないばあ」「高い高い」繰り返し遊びの共通点を探る

みなさんが思い浮かべる小さいお子さんとの遊びといえば、いないいないばあ、高い高い、追いかけっこ、いっぽんばしこちょこちょなど。どれも、注意を引きつけたあとになんらかの"お楽しみ"が待っているアクティビティです。
遊びが始まると、多くの場合には1度で終わることはなく、2度3度と繰り返します。その都度キャッキャの声が大きくなっていきます。もっともっととせがむこともあれば、自分でもパパやママと同じようにやってみようとまねし合いっこに移行することもあります。
赤ちゃんや小さいお子さんは、このようなパッと盛り上がってまた静かになって……を繰り返す遊びが大好きです。

赤ちゃんがひとつのものごとに注意を向けていられる注意持続・集中力のスパンは私たち大人に比べてずっと短いです。盛り上がったり静まったり、〈賑やか-静か〉のメリハリをつけて繰り返すことが、赤ちゃんにとっては分かりやすくて面白いのかも? と考えています。
子どもがことばを獲得していく過程について、なにか具体的な例を通してお伝えしたいと思っていたところ、最近、1歳2か月になる息子がことばを習得する過程に立ち会う経験をしました。とある繰り返しのある遊びを通して、ことば(有意味語)の表出をひとつ獲得したということがありましたのでぜひご紹介させてください。

「あったー!」の発語を引き出したブロック探し遊び

その時期の息子は「ものを入れては出す」「ものを置いては取る」がブームでした。
おもちゃの型はめボックスから三角のブロックを取り出し、ソファーの上に置いてみたり、私の脚の上に置いたりを繰り返しているとき、偶然、私の両脚のあいだに黄色いブロックがはさまりました。私は、ふと思いついて、脚を広げてブロックを脚の下に落としてみました。目の前から突然消えたのが息子にとっては面白かったようです。
消えてしまったブロックを追いかけ、私の脚のあいだに手をつっこみます。わしっとつかみ、取り出したブロックと私の顔をうれしそうなようすで見比べます。この瞬間に、私と息子とブロックの3点が視線で結ばれ、いわゆる「三項関係」が成立します。「うれしそうなようすで」というのもポイントです。「見つかったよ!」と報告したい気持ちが表情からうかがえます。なにかを伝えたい・報告したい・共有したい・共感してほしいという感情の動きはことばの源泉、コミュニケーションの動機になります。
息子の中で、私の脚のあいだに隠したブロックを探し出すという遊びのスイッチが入りました。今度は自らブロックを隠し、私の注目が続いていることをチラッと確認します。
隠したあとは、探す番です。息子が探しているときに、私はことば掛けをします。「どこどこー」「ないないー」「あれれ~?」など。場を盛り上げるための声掛けです。
さあ、見つかりました! しっかりと手に持ってずぼっと取り出します。ばっちりとアイコンタクトが取れたまさにその瞬間、私は「あったー!」と言いました。すると、なんと! 息子も「あっ……たぁ~!」と、まねっこを返してくれたのです。これには私も驚きました。 まだまだ喃語が中心で、発語らしい発語はほぼ聞かれていなかった息子から、まさか音声模倣が返ってくるとは。

実際のことばの指導では

療育や言語指導で使われる言い方をすると、この驚いた私の表情や応答も、息子にとっては強化子(その行動の正規頻度を高める刺激)として働いたようです。3度、4度、とブロック隠しとブロック見つけを繰り返しおこない、その都度、「あった~!」や「……った!」と表出を一生懸命に繰り返していました。
息子とのふれあいタイムは言語療法ではありませんが、ついつい日頃の習い性で自分の仕事のやり方が出てしまいます。言語療法を実施するときの鉄則として、応じてくれた行動やリアクション、ことばの表出に対しては、その場ですかさず応答してしっかりと強化すべし、というのがあります。
あえて「発語」ではなく「行動」と表現したのは、引き出したいものがいつも発語とは限らないからです。現段階での息子の言語発達水準では、"何かを言わせる"をターゲットにするのは時期尚早です。まだほとんどことばを話したことのない息子に言語表出を強要してしまうと、とたんに遊びが遊びでなくなってしまい、気が逸れてしまっていたことでしょう。この遊びのなかでターゲットになっていたのは、「あったー!」と言うことではなく、あくまで「ブロックを隠して、探して見つけ出し、見つけたことを共有してもらう」行動のほうです。それができたら二人で「わ~い!」と喜べば、遊びの成立そのものが強化子となり、繰り返し取り組んでくれます。強化子と言うと堅い書き方になってしまいますが、要は繰り返し遊ぶことを息子自身も楽しんでいればよし、ということです。

コミュニケーションは息を合わせてターン・テイキング

隠して、探して、見つけ出して、また隠す ―― 一連の繰り返しは10回ほど続きました。「あったー!」を言えたのは毎回ではなく、全体のうち2~3回ほどだったと思います。互いに息を合わせるのが難しく、私がフライングして先に言ってしまったことで、彼の言うタイミングを横取りしてしまったこともありました。ああ、せっかくなにか言いかけていたのに……!
コミュニケーションはターン・テイキング(話者が代わる代わる交代して話す)が基本です。阿吽(あうん)の呼吸で息を合わせることで、先取りせず子どもの番をしっかりと待つことができます。必要充分な時間だけ待つことは意外と難しく、こちらも片手間ではなく注意をしっかり向ける必要があります。
ときには、言おうとしたけれども、「……ぅわあ!」のように、ことばの形が曖昧になることもありました。そうした反応に対して、「あったー」のお手本を聞かせることはしてもOKですが、当人の表出に対して注意や修正をおこなうことはしません。獲得初期段階では、ひとつひとつの正確さよりも、生起頻度が増えていくことが重要だからです。つまり「お話することが楽しい、うれしい気持ちを伝えられたことでさらにうれしい」をしっかり経験することのほうが、正確にことばを発することにこだわるよりも、何倍も重要だからです。

幼い子との遊びは、偶然見つかり、突然始まるもの

さて、ここまでのポイントをまとめます。
幼いお子さんのことばの発達を助けるかかわりでは、「パッと盛り上がってさっと静まる遊び」を繰り返しおこなうことが鍵になります。 ただし赤ちゃん・幼児さんとの遊びは基本的にフリースタイル型。遊びの発見は、偶然見つかったり、偶然始まったりするもので、お相手をする側は、遊びを提案する力よりも、どちらかといえば子どものやろうとしていることを観察する力が大事です。こちらが計画を練って用意したカリキュラムやプログラムに沿って動いてくれるとは限らないということですね。偶然に見つかった遊びに乗っかり、それを共同で繰り返して盛り上げます。
このあたりが、子どもと遊び慣れていない人は少し苦労するポイントのようです。
反対に、子どもと遊ぶのが上手な人を観察していると、遊びを偶然見つけてそれを反復して子どもを楽しませるのが上手です。たとえば、息を大きく吸ってからぷぅ~と言うだけでも、そのときたまたま子どもが面白がってくれれば、それは遊びの始まりです。

緩急をつけ期待を持たせるのが楽しく遊ぶコツ

同じ調子で機械的に繰り返すだけでは飽きてしまう場合もあります。そうしたときには強く激しく、あるいは優しくそっと小さな声で……などと強弱をつけてみたりします。素早くやってみたり、反対に長く"溜め"を作るのも有効です。来る! と思ったらワンテンポ遅れてやってくると、意表を突かれたドキドキの緊張がわっと解放され、笑い声が一回り大きくなって返ってきます。繰り返しは、次に来るものを予測する助けとなり、子どもはワクワクと期待感を高めます。楽しさが分かってくると、次は、期待していたのと少しだけ違う形で返ってくることのスリルや相手との掛け合いも楽しめるようになってきます。
何度も繰り返すということは、その反復の中でやり取り(コミュニケーション)の練習をどんどんしているのです。

「汎化」の視点も大切に

さて、「あったー!」とことばを発した我が息子、その後、ことばは定着したのでしょうか? ことばをお話しはじめの時期には、いったん現れたと思った語を、そのあと話さなくなることもよくあるようです。ある場面で発したからといって、獲得したとは限りません。
療育やリハビリテーションでは、「汎化(はんか)」という概念を大切にします。
汎化とは、特定の場面や状況、条件、相手などとできるようになったことが、他の場面・状況・条件・相手ともおこなえるようになることです。あるいは、教室や訓練室のような設定された場で練習したことが、日常の生活でもおこなえるようになることです。 こうした汎化が充分に生じていくことで、その場限りの発語とならずに、定着・獲得に近づいていきます。
そこで私は、翌日と翌々日、お風呂のなかでおもちゃをお湯の中に沈め、浮いてくるのを待って「あったー!」を言う遊びに息子を誘ってみました。
すると、結果は大成功!お風呂のおもちゃでも「あったー!」を発することができました。
その後、彼は、ソファーのクッションに隠した積み木を取り出しては「あった!」、お菓子のボーロをカーペットの下に隠しては取り出し「あった!」と、さまざまな対象に使用を果敢に拡大していきました。もっとも、ボーロを床にこすりつけるのはフローリングが粉だらけになるので、母としてはやめてほしいのですが……。
留意点として、いくらさまざまな場面に汎化させていくことが大切とはいえ、「あったー!」を言うのにまったくふさわしくない文脈状況で「あったー!」と言わせること、これはあまりよくありません。空の呪文のように「あったー」を唱え続けても、ことばの獲得を助けることにはなりません。ことばは①適切な場面状況、②意味と結びついていくことで、適切なレパートリーとして定着していきます。 それから、復唱で言ったのか、自ら言ったのかの違いも大切です。息子はブロックとお風呂のおもちゃ、2つの場面どちらでも、はじめは復唱での表出から、徐々に自発での表出に移行していきました。

「ことばのシャワー」や「たくさんの読み聞かせ」に代わるアドバイスとして、「繰り返しのある遊びを」

以上が、幼いお子さんと、やり取り遊びのなかでことばを育んでいくかかわりの一例のご紹介です。
ことばが遅いお子さんに関して、「おうちでできることはなにかありますか?」という相談は、母子保健相談でも非常によくあると聞きます。「ことばのシャワーを」や「絵本の読み聞かせをして」に代わるアドバイスとして、「偶然始まった面白いことを何度も繰り返して」をぜひお伝えください。
できれば、保健師さんが相談に来たお子さんと一緒にやってみせ、ご家庭で実践してもらえるとよいですね。ことばの発達に詳しい地域の言語聴覚士も力になれたらと思います。

おすすめの本

『子どもとのコミュニケーションがどんどん増える! 0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)
著者:寺田奈々 絵:beth

我が子のことばの発達について気になる保護者向けに書いた私の本です。おかげさまで売れ行きは好調で、6刷りになりました。ことばをひきだす親子遊びというタイトルなのに、0歳台や1歳台でご紹介している遊びでは、実はほとんどことばを言わせる場面が登場しません。子どもってこういうことを面白がりがちだよなあという場面を思い浮かべ、名前をつけて遊びにしてしまおうという作り方をした本です。目の前のお子さんに合わせてどんどんアレンジして活用してもらえるとうれしいです。

著者
寺田奈々
ことばの相談室ことり
言語聴覚士

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