保健師のビタミン

園芸福祉で介護予防

第7話園芸福祉活動ケース紹介

今回は、利用者のお一人、Sさんの晴耕雨読者の利用方法をご紹介します。 Sさんは、開設当初から6年間通い続けてくださっている80代前半の男性です。もともと足腰に問題を抱えておられたのですが、週1回ペースで晴耕雨読舎をご利用しておられます。

Sさんのお好きな活動は、畑づくりと大工作業です。

足腰が悪く、普通の畑での作業が困難なため、畑づくりではレイズドベッドを使用しておられます。決して広くはない120cm×60cm程度の広さのレイズドベッドを有効に活用し、計画的に野菜を育てておられます。 野菜づくりが上手なSさんの畑はいつもよく手入れされていて、明らかに他の畑よりできばえの良い作物が育ちます。 できあがった作物は、持って帰らずに、お昼ごはんにみんなと一緒に食べるのがSさん流。スタッフに「これ、できてたで。お昼使うやろ。持って行って。」と言って渡してくれます。ほかの仲間が喜んでくれるのが、Sさんの喜びなのです。

少しふらつきがあり、腰の骨折などの影響で歩行の際に注意が必要なSさんには、特に活動量の多い午前中に自費のヘルパーさんに付き添いに来てもらっています。こういうケースはSさんだけですが、そこまでしてでも「晴耕雨読舎に行きたい」「やりたいことをやりたい」と思っていただいているのです。

大工作業は、昔からやっておられた日曜大工の腕前を生かして、小さな箱から大きな棚まで、農園芸に使うあらゆるものを作っていただいています。仕事がとても丁寧で、丈夫なものをつくってくださるので、大事な製作があるときはSさんに頼みます。

差し金できっちりと寸法を計り、鉛筆で線を引いて材木を切り、準備が整ってから組み立てにかかるSさんの仕事運びは、年季の入った美しいものです。今月は本棚、来月は名札プレートなどと、どんどんとプロジェクトが舞い込んできます。

晴耕雨読舎では大活躍のSさんですが、普段ご自宅では「テレビの番」をしておられるそうです。担当のケアマネージャーさんの話しでは、Sさんは生活を、晴耕雨読舎に元気に行けるように組み立てておられるとのこと。

体調が悪いながらも気持ちを前向きに持っておられるSさんのモチベーションの源は、「わしはまだまだできる」というご自分に対するプライドと自信なのだと思います。そして、その自信を証明できるのが、晴耕雨読舎での畑づくりや大工仕事なのです。

そのためSさんは、利用の前日、前々日にはしっかりと休息して体力を温存します。利用日の金曜日には晴耕雨読舎で活発に活動をされ、少し疲れた土日はまたゆっくり、という感じです。ちょっと無理をしたり、飲みすぎなどがあった場合、娘さんから「そんなことしとったら、晴耕雨読舎に行かれへんよ。」と励まされて(?)いるようです。

そんなSさんが、昨年冬から体調を崩され、入院することになってしまわれました。一時は命まで危ぶまれるか、という状態にまでなられたSさんでしたが、奇跡的に復活され、再び定期的に晴耕雨読舎を利用してくださるまでになりました。この復活劇については、次回ご紹介いたします。

著者
石神洋一
特定非営利活動法人たかつき 主催
NPO法人日本園芸福祉普及協会理事、日本園芸療法協議会理事など
著書に「福祉のための農園芸活動―無理せずできる実践マニュアル」(農文協)がある。

保健師のビタミン 著者別一覧へ

ページトップへ