保健師のビタミン

映画にみる(発達)障害

第7話「遅滞と進化」

『I am sam』(2001,アメリカ)出演:ショーン・ペン、ミシェル・ファイファー、ダイアン・ウィースト、ダコタ・ファニング、ローラ・ダーン

ショーン・ペン扮する知的障害者が、自分の娘の養育権を巡って女性敏腕弁護士(ミシェル・ファイファー)と共に奮闘する様を描いた作品。

全編に本作品用に提供されたビートルズのカバー曲が使われており、作品をどこか温かい雰囲気にさせています。

この映画はいろんな観点からみることができると思いますが、その一つにショーン・ペン扮する知的障害者親子とミシェル・ファイファー演ずる女性敏腕弁護士親子の対比構造が見て取れます。

前者は親子が一緒にいることを望んでおり、またそういう時間的な余裕があるにもかかわらず、“父親に障害がある”という理由でそれがままならない。後者でも親子は一緒にいることを望んでいるでしょうが、“母親に時間がない”という理由でそれがままならない。

「時間」ということをキーワードにさらに考えると、父親がもつ知的障害とは「時間の遅れ」でしょうし、母親の時間の無さは「時間の進み」と言い換えられます。

例えば一般的レベルの人が1時間でできる仕事の量を100とします。「時間の遅れ」がある場合は1時間のうちに50しかできません。一方、「時間の進み」がある人は30分で100できてしまうので、残りの30分でさらに100の仕事を片付けるといった具合です。

さて、こうしてみると、時間の「遅れ」や「進み」といったものは、時間的な「ズレ」としては相対的なものであって、知的障害を一方的に「遅れ」とか「遅滞」ということはできないんですね。

何かと昨今の世の中では「成長」とか「進化」ということばかりが「良いもの」とされていますが、そんな世の中で苦しんでいる人、結構いませんか?

著者
伊藤 匡
東京大学21世紀COE「心とことば- 進化認知科学的展開」特任研究員
1971年兵庫県生まれ。臨床心理士。日本では数少ないサバン症候群の研究を行う傍ら、精神科クリニック・スクールカウンセラーなどを現場として主に児童・思春期の精神保健に携わる

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