保健師のビタミン

コミュニティをつくる

第8話やっぱり、餅は餅屋でしょ

私は認知症のグループホームを経営している身でもあるので、今年は事業開設者研修を受講しました。研修の一環で、県内でも有名な、優れた活動をしている社会福祉法人に現場体験で伺いました。

優秀な施設でさえ、身体介護から認知症の介護への転換をはかり、エビデンスのある介護法が確立しているわけでもないので試行錯誤を繰り返し、尊厳ある介護に向かって日々努力をしています。

それだけでも大変なのに、それに地域づくりの役割も期待されていて、はっきり言って無理!というのが本音のところのようです。地域との信頼関係をつくり、介護における多様な役割を果たすことを介護職に期待されているわけです。

あらためて、どうしてこんな風になっちゃったんだろうって思います。地域づくりは保健師がやらなければならなかったことですよね。保健師ができなかったことを、介護の分野がやらなければならない状況になっているのです。

保健師は保健師でいろいろ役割の期待があるのでしょうが、少し偏った見方になってしまいますが、保健師がやってこなかったことの”ツケ”を他の職種に回して責任回避しているとも言えないでしょうか。

認知症介護の視点から地域づくりをすると、どうしても認知症に特化してしまいがちです。誰もが住みやすい地域が、結局は認知症のご本人や家族が暮らしやすい地域なのですから、特定の目的のためにだけ地域づくりをするのは本末転倒だし、他にも効率が悪すぎます。「地域づくりの現場に保健師を戻してくださいよ」としみじみ思います。

こうやって介護の仕事もしていて思うのは、保健師の専門性は地域づくりだよなあということ。

保健師は何でも屋みたいに言われていましたが、地域づくりは保健師の仕事ですよ。もちろん、保健師ひとりががんばるものではありません。地域の住民と一緒になって、住民が行うものです。地域づくりの勉強や実習をしている専門職は保健師なんですよね。

また、私が現場体験で伺った施設は、新卒の職員にみっちり3ヶ月間チューターと指導者が研修を行っていました。専門職としての技術はもとより、施設が求める職員として、地域で必要とされる人間としての研修です。

先輩のやることを盗んで技術を身につけよ、と言われていた時代もありましたが、何気なくやっている悪い習慣に気がつかないこともあり、まねをすればいいというものではありません。日常化して麻痺している現場を第三者の視点で見直すことが必要です。

地域づくりができるような保健師を育てていくことを、行政の保健師はじめ、保健師をかかえる職場には、真剣に考えて欲しいと思います。

人を育てることは、チューターも指導者をも成長させます。日常の業務が忙しいからといって新卒者を育てることをあきらめてしまっては、組織を活性化させることはできないのです。

新卒者をいきなり現場に放り出すことは、結局は大きな損失につながることを理解したいものです。行政の場合は組織の損失だけに終わりません、市民生活の損失を伴うのです。

「やっぱり、餅は餅屋ですねえ!!」と言わせたいですよ。

著者
三上公子
NPO法人活き粋あさむし 事務局長、(株)ヘルスプロモーション青森 代表取締役、医療法人蛍慈会理事、コミュニティ・レストランネットワーク運営委員、保健師、看護学修士
保健師らしい仕事をしたいがために行政の保健師を退職し、フリーの立場でヘルシーコミュニティ形成に奮闘中。
ヘルスプロモーションの活動において、地域住民の立場でコミュニティのしくみを探り、住みよい地域をつくろうと思って活動をしています。

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