事例に学ぶ保健指導
第5話「間違えた行動!」と言う前に…
「病院で治療を受けてほしいと思って保健指導した住民なのですが、『健康食品をやっているので、病院には行かなくても大丈夫、俺は健康だから』と言い切って、自己流の健康食品に走っているんです。食事に気をつけている様子もなく、間違った行動をとっているのに、言っても聞いてもらえず困っています。どうしたら正しい行動をとってもらえるのでしょう?」
これに似た相談を時々受けます。そこで、困っている保健師さんに、「その人は何のために、健康食品を取ってるの?」と聞いてみます。
「それは聞いてないです。健康食品をとっているので、それでいいと言い切っているんです。やっていることは間違っているのに…」と答える方が多いです。
正しい行動って、何でしょうか。この場合、保健師さんから見た、病気を改善するための行動を指していると思います。確かに、保健師は専門家であり、病気を防ぐための正しい行動をご存知です。
人は、自分が思っている正しい行動をとっていない人は、間違った人だと思いがちです。この事例は確かに病気の改善のための行動としては間違っているように思えます。でも、この住民の方の“動機”は間違っていないはずです。「正しい知識を持っている保健師のアタシの言うことを聞いてくれない住民」=「困った住民」と、決めつける前に、「健康食品をはじめた動機はなんだったの?」と聞いてみませんか?
ダメな行動だけを変えさせようとしても、相手は何も変わりません。まして、頭ごなしに話をされたとき、その声は耳に届かず、心の中にも入らないものです。自分なりの行動を起こした動機をまずは認める。
人の行動には、意味があります。また、多くの場合、何らかのメリットがあるからこそ、その行動をとっているのです。この住民にも是非、お金を払ってでも健康食品をとる理由を聞いてみてください。何か動機があるはずです。目的も聞けるかもしれません。その目的に向かって、何をしたら良いのかを一緒に考えられたら、相手に少しずつ寄り添っていくことができるはずです。
アドバイスは目標を共有したときに始めて効果のあるものです。住民が良くしたいと思っていることと、保健師が良くなってほしいと思っているところが一致しない限りアドバイスは聞き入れられません。相手の動機、目標をまず聞いてみましょう。