保健師のビタミン

事例に学ぶ保健指導

第8話考える保健師になろう

~育児相談の場面~

お母さん:
「子どもが悪いことをすると、ついつい叩いちゃうんですよ。ダメだとわかってるのに…」

保健師A:
「えー。いつもどんなときに叩いちゃうんですか?」

お母さん:
「おもちゃを片付けないときとか、言うことを聞かないとき、ついね…」

保健師A:
「そうですか。なるべく叩かないようにしてあげましょうね。」

~カンファレンスタイム~

保健師A:
「今日のお母さん、虐待の可能性ありです。つい…って言いながら、いつも叩いてるって言うんです。」

保健師B:
「じゃぁ、ちょっと様子見て、みんなで気をつけてみていきましょうね。」

こんな場面ありませんか。叩く行動は、決して好ましいものではありません。ですが、“虐待の可能性あり”と決めた判断理由はどこにあるのでしょう。「駄目だと分かっているのに、ついつい叩くお母さん」でしょうか。「ついつい叩く」⇒「叩く」⇒「虐待」⇒「虐待の可能性あり」と、いう図式が伺えます。

つい叩く、と言われても、ついという感覚、叩くという叩き方。人それぞれ言葉の意味が違います。人はそれぞれの体験や情報などを元に、言葉に意味づけをしています。ですから、保健師さんの感覚で捕らえてしまう(言葉のマップがあると言われています)と、全く違うこともあります。相手の言葉の持つ意味の中で理解していくことが、相手の世界で相手を知ること、寄り添うことのもう一つです。

まず、どんな風に叩くのか、パシっと叩くのか、コツンとなのか、道具を使っているのか、子どもの体にあざができるほどなのか、聞いてみてはいかがでしょう。

「虐待の可能性あり」と言うことで、事故が起きたとき保健師が責められないよう予防線を張っての発言かも知れません。悪いことを想定するのも危機管理上必要な場合もあります。私たちの身を守ることも大事なことです。また、判断を求められることもあります。そのためにも、相手をよく見ること、良く聞くこと、勝手に解釈しないことが大事だと思います。

著者
村田陽子
(有) ビーイングサポート・マナ 代表取締役、NPO法人まなネット 理事長
自衛隊中央病院高等看護学院、北海道立衛生学院保健婦学科卒業後、自衛隊札幌病院で透析室看護師となる。朝日新聞健康管理室、HOYA健康管理室などで健康相談、健康教育業務に携わり、1990年よりフリーの保健師、健康教育コンサルタントとしてセミナーを実施。95年ビーイングサポート・マナを設立。01年NPOマナネット設立。

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