保健師のビタミン

家庭基盤と絆

第1話胎生期から愛情を

今回いただいた連載を執筆している私のオフィスは、目前に明石海峡が広がり、明石海峡大橋の下を貨物船が行き来するのが見える絶景の場所にあります。

連載のテーマが「子育て支援」ということで、10回を進める間に現代社会の抱える深く苦しい問題の解決の手助けになればと願いながら綴っております。

この場所に座り、紺碧の海を眺めていると、不思議に心が休まり穏やかな気持ちになり、自然と文章が温かいものになります。

海は私たち人間の大いなる母だという説があり、進化のスタートも海でした。ですから人は悲しくなったり辛くなったりしたら、やたらと海が恋しくなるのは、記憶のどこかで母なる海という故郷に癒しを求めるのかもしれません。

また、波の音は胎児が育つときに母体の中で聞いている血流の音と同じ周波数なので、波の音を聞くことがリラクゼーションの効果を生むそうです。波の音の癒やし系CDが売れているのも理解できる気がします。

禅の本を読んでいると、「四生」という言葉に出合います。四生とは、仏教における生命の生まれる四つの方法で、

  1. 人間や獣のように母の胎(からだ)から生まれる「胎生(たいせい)」、
  2. 鳥類のように卵から生まれる「卵生(らんせい)」、
  3. 虫のように湿気の中から生まれる「湿生(しっせい)」、
  4. 天の神々のように過去の業の力で突然生まれる「化生(けしょう)」
を言うそうです。

我々人間は、あらゆる生物の中でも直立二足歩行の高等生物として選ばれし生き物で、キリンや象の赤ちゃんのように誕生して間もなく自力で立つ動物と比較すると、人間の赤ちゃんは自力歩行できるまで約1年の歳月を要します。

そのプロセスには首の据わりから、お座りやハイハイなど重要な発達段階があります。

それだけに、人間の子どもが自分の足で歩くまでの間には、心と手間をかけて愛情を注ぐ必要があるということだと思いますが、それより前に、胎内に宿ったときからの胎内生活にも心を配ることが、生まれてくる子どもの人生に大きな影響を与えると私は考えます。

胎教というのは、クラシック音楽を聴いたり美しい絵画を眺めたりするということだけでなく、夫婦が赤ちゃんの誕生を心から楽しみに待ち望み、両親となる2人がお互いをいたわりながら日々、仲睦まじく暮らしていくことこそが本当の胎教だと思います。

「”妊娠している女性はバクチが強くなる”という根も葉もない迷信によって、パチンコ店に大きなお腹で入りびたっている妊婦がいる」というのを何かの本で読んだ記憶がありますが、音はうるさいし、タバコの煙はモウモウとしているし、胎児の環境としては良いことは一つもありません。こういう親の存在を知ると世も末だと悲しくなります。

昔の数え年というのは、胎教で育つ間の十月十日を1歳までの歳月と考えており、胎児の間から大切に育むことの重要さを意味しています。

この世に産声を上げた日から親子になるのではなく、宿ったときからすでに深い胎縁が結ばれていることを自覚し、妊娠期間を過ごすことで後々の育児に大きな差が出てくるのではないでしょうか。

~今日の花華綴り~
 「自分の誕生日は母親の分娩記念日である」

著者
柴田花華
チャイルドケアコンサルタント。
モンテッソーリ幼児教育指導者、医療心理科講師を経て民生委員、児童委員民連会、教育委員会、青少年育成委員会等で講演家として活躍中。
障害児の母親を心理的に支える「赤い口紅運動」を主宰。新聞・ラジオなどのメディアで多数取り上げられる。日本禁煙医師歯科医師連盟会員。2003年5月5日の子どもの日にオフィスあんふぁんすを設立。同時に「赤い口紅運動」開始。

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