保健師のビタミン

家庭基盤と絆

第8話思春期は死瞬期なり

無邪気に笑い、眠くなったら寝るという子ども時代を過ぎると、思春期が訪れます。このころになると「切れる15歳」などと言われ、少年犯罪も増えてきます。

これは、男女の性差による体の変化に伴い、心のバランスを自分で調整できない時期にあり、いわゆる第二反抗期と呼ばれる「難しい年ごろ」になっていきます。

そして、悪さ=カッコ良さと思うようになり、不良デビューとして一番最初に手を出しやすいのが「タバコ」です。今ごろになって「未成年者識別カード」が導入されていますが、タバコの歴史の長さから考えると、いつまで野放しにしていたんだ!!と思います。

発がん物質を何種類も含有し、依存症に陥るタバコというものを、思春期のはじめに覚えると、もちろん生涯本数は天文学的数字になるし、体に対する害も未青年(成年)の早い時期から喫煙を開始するほどに禁煙が難しく、さまざまな病気を発病しやすくなります。そして、最初にタバコを吸った場所は、なんと「自宅」がデータでトップになっている事実も驚きです。

私の母は喫煙者で、いつも何かにイライラしながら、疲れた顔をして紫煙をくゆらせていました。私はそんな母の顔を見るのがとても嫌でしたので、自分は絶対にタバコは吸わない。タバコを吸っている人は皆嫌い!!と思っていました。

そういう訳なのかどうかは分かりませんが、私はいつの間にか禁煙対策に参画するメンバーとして数々の学会に参加しています。

世の中からタバコを無くそう!! 特に母親の喫煙を防止しようと思って活動していますが、現実と理想は違っていて長男は中3のころからタバコを吸い始めました(次男は高3ですがタバコはやりません)。すると不思議に、タバコを吸う友人たちが集まります。

「タバコは寿命を縮めるよ!」と言っても「タバコをやめてまで、長生きしたいとは思わない」「いつ死んでもええ」と、命の尊厳などまるでないような言葉を平気で言います。

原付バイクをノーヘルで2人乗りで走らせることも、事故をしたら即死につながる大変危険な行為ですが、そうやって暴走族のような真似をすることがカッコいいと思う年齢なんです。

そこを商魂たくましい大人社会は、青少年がよく読むマンガや雑誌にタバコが似合う芸能人を使ったり、「これ欲しいなあ」と思わせるような景品をつけたりしてタバコ購入意欲を高めています。

結果として、ひどい場合には青少年たちは万引きをしたり、引ったくりをしたりしてでもタバコを買いたいと思うのです。

健康増進法ができてから、世の中の風潮も禁煙や分煙に流れていて、また、我々も日々その努力をしているため公共施設や乗り物などで禁煙対策が前進していると喜んでいます。しかしそれ以前に、青少年たちに、まず自らの命を大切にすることを根元から教えることが急がれます。

自殺サイトや自殺マニュアル本など、死ぬことさえ「カッコイイ」と思わせるような俗物は、大変危険です。尾崎豊が、「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」「盗んだバイクで走り出す」と歌っていましたが、彼が若すぎる死を迎えた今でさえ、多くの若者から支持されているのは、思春期の心身のバランスを崩した少年少女の心にピンポイントで訴える何かがあるからでしょう。

四苦八苦の四苦は「生老病死」なので、本来誰もが死ぬことは恐いはずなんです。1回しか死にませんが、人生も1回しかありません。それを瞬間的に、しかも簡単に死を選ぶ未来ある若者たちを我々が守り、そして彼らに手本となるべき姿を見せなければなりません。

長男が荒れていたころ、家に遊びに来る子たちは、金髪、丸刈り、白タオルのハチ巻、細いまゆ毛……外で出会ったら絶対、ビビるやろうなあ、、、、と思う連中でしたが、外見は超恐ろしくても、玄関で脱いだ靴をきちんとそろえてたり、「おじゃまします」と挨拶をしたり、意外と普通の子達でした。

一度、こんな忘れられないことがありました。一見して不良でも、息子の友達だから夕飯を出しました。そのとき、友達の中でも一番「うっとおしい」子が急に涙をポロポロ流すので、「どないしたん?!」と驚いて聞くと「俺、白くて温かいご飯を食べるの、小学6年生の修学旅行以来です」と言うのです。

一体、この子は3年間何を食べて、この子の母親は何をしているんだろうと、慈しみの心でいっぱいになりました。外見は悪ぶっていても、皆、愛という温かみに飢えているのです。

インドから南方に伝わった仏教を小乗仏教といい、これは「ダンマバダ」という経典を守り釈尊の言葉を説いていますが、「勝つ者は恨みを受く、負くる者は夜も寝られず、勝つと負くるを離るる者は寝ても覚めても安らかなり」という教えがあります。

受験という競争から落ちこぼれ、愛のない家庭を巣として育った少年たちに、必要なことは、説教ではなく、特にごちそうでもない普通の「おふくろの味」なんです。

悪ガキは、一種のはしかのような物で、知らぬ間に卒業します。そして、悪ガキを卒業した少年たちは、今、それぞれに社会でがんばっています。家庭基盤を改めて考える時です。

~今日の花華綴り~
 「少年たちの心のとげを抜くのは、おふくろの握り飯である」

著者
柴田花華
チャイルドケアコンサルタント。
モンテッソーリ幼児教育指導者、医療心理科講師を経て民生委員、児童委員民連会、教育委員会、青少年育成委員会等で講演家として活躍中。
障害児の母親を心理的に支える「赤い口紅運動」を主宰。新聞・ラジオなどのメディアで多数取り上げられる。日本禁煙医師歯科医師連盟会員。2003年5月5日の子どもの日にオフィスあんふぁんすを設立。同時に「赤い口紅運動」開始。

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