映画にみる保健活動のヒント
第1話保健師はつらいよ!
いきなりですが、あなた"フーテンの寅"はお好きですか?
ご存知、山田洋二監督『男はつらいよ』シリーズの主人公、車寅次郎のことですがね。
ところで、この映画のテーマは何でございましょうかね。寅さんは全国のお祭りからお祭りへ"ハレの日〈非日常〉"を商売の種に流れ歩いては行く先々でマドンナに出会うのですが、"ケの日〈日常〉"は虚脱して反省の日々の独歩行です。
さてわたくし、遊びを手段に、すべての子どもを健全に育成するという(大層な目的をもった)児童館・放課後児童クラブの推進を図る財団に勤務しております。
しかもその手立ては健全な「遊び」です。
今、コラムをお読みになっているあなた「遊びで人間が健全になるなら苦労はないわ……」なんて思いましたね。それはいずれ、ふれるとしまして……、とりあえず、あらゆる「遊び」を調べたり、できるだけ体験していくのも私の仕事です。
特に「文化財」といわれる、児童文学、演劇、映画、音楽などは、もっとも子どもの発達に有効なものです。
そこで"寅さん"ですが、私はこの映画を"カウンセラーの物語"と読み解きます。寅さんの前には必ず悩みを抱えたマドンナが登場します。これがまた美人ばかり。だから凡人の寅さんは一目ぼれ。気を惹きたくて真剣にマドンナのために動き出します。心の裡では万が一うまくいったらと……夢を描きます。ですから、美人でなければなりません。そして、必ずマドンナと二人で酒を酌み交わすシーンがあります。寅を悪人でないと見極めたマドンナは、行きずりであればこそ安心して、寅さんに悩みを打ち明けます。
その寅さんは、学問をしていませんから権威がありません。社会的成功者としての権力も経済的成功者としての財力もありません。ですから、寅さんが出来ることは、マドンナの悩みを真剣に聞くことだけです。口は挟まず顎を引いて頷きながら、落ち着いた時に「あんたみてえな綺麗な人にも、そんな悩みがあったんだ……」と相槌を挟みます。
よく聞いてもらえたマドンナは、自分の本心に気がつき、悩みの整理がついて、解決の糸口に到達します。クライエントが立ち直った時、カウンセラーは捨てられる。セオリー通りの映画なのです。
さて、寅さんがマドンナの話を聴く時の物腰・表情・口振り、すべて仕事の参考になると思いますよ。