映画にみる保健活動のヒント
第6話誰が子どもを殺せるか?
さて、今週は真夏のスペインのお話です。
観光客でにぎわうビーチに女性の惨殺死体が打ち上げられます。その身体には刃物でつけられた無数の傷痕がありました。
生物学者のトムと身重のイブリンのイギリス人夫婦は、バカンスに地中海沿いの町べナビスへやってきます。町は祭りの真っ最中で、その喧騒から逃れるように、二人は昔トムが訪れたことのある静かな島アルマンソーラへと向かいます。
到着した島は奇妙なことにガランとして子どもの姿は見え隠れするのですが大人の姿が一切見えません。ホテルまで移動しますが、誰一人として大人が現れません。二人の不安が徐々につのっていきます。
ようやく町筋に一人の老人を目撃してホッとしますが、老人が中庭に消え去ると、子どもたちの遊び興じる声が聞こえ、後をたどってみると老人が吊るされた惨殺死体になっています…。やがて、若夫婦も幼児に銃で狙われ…その無邪気な表情に反撃出来ません…エンドマークに子どもたちの笑い声がかぶります。
1976(昭和51)年のスペイン映画、ナルシソ・イバニエス・セラドール監督の『ザ・チャイルド』(原題=誰が子どもを殺せるか?)です。なんと32年前の映画ですが、当時"スペインの異色恐怖映画"という宣伝文句で、日本では翌52年の5月の連休に封切られました。
この映画は、なぜ子どもたちが大人を一人残らず殺していくようになったのか、謎解きはしていません。しかし、映画を見た方は気がつくでしょうがタイトルバックに、かつてのニュースフィルムから抜粋した子どもたちの映像が次々に映し出されるのです。
空爆を受けたスペイン・ゲルニカの子ども、ナチス・ドイツ政権下のユダヤの子ども、原爆を受けた日本の子ども、米軍空爆下のベトナムの子ども、内戦や飢餓に泣くアフリカや南米やアジアの子どもたちの姿なのです。
これらの実写モノクロ映像が胸を突きます。スウェーデンの婦人活動家エレン・ケイは著書『児童の世紀』の中で"子どもは歴史の希望"という言葉を残し、20世紀は子どもを大切にする世紀になることを切に期待しました。
しかし、20世紀も子どもたちは大人の価値観の一番の犠牲者でした。この映画は、子どもに冷たい社会を作った、大人たちに対する子どもたちからの復讐を描いているのです。これに対して私たちは何も反論の言葉を持ちません。秋葉原事件も然りです…。