保健師のビタミン

多世代社会のあそびの力、おもちゃの力

第2話子どもの遊びにシニアの力

長い人生の中で、乳幼児ほど遊びの天才時期を誇れる時代はない。

しかし今、この遊びの天才時期に心配なことがある。
「遊び力」の弱体化である。
遊びという子どもの仕事の質が低下してきている。

「子どものときに一生懸命遊ばないと、大人になって一生懸命仕事は出来ない」―これはラジオ番組でご一緒したときの、なだいなだ氏の言葉だ。

子どもの遊びには手抜きはない。知恵と技で勝負をかける。人との係わりなしには考えられない。遊びの効用には枚挙にいとまがないのだ。

世の中では、基礎学力の低下が心配されているが、遊び力の低下のほうがよっぽど気懸かりだ。現在も、将来も経済大国として歩むためには、一生懸命仕事が出来る多くの人材は不可欠だ。そう考えると、遊び力の問題は、まさに「経済」の問題ともいえる。

この「遊び力」の低下によって二つのことが気懸かりになる。

第一には、ハイテクに取り囲まれた子どもたちの環境が心配だ。今日、コンピューターゲームなど面倒見の良いおもちゃによる手厚いケアを受けすぎていて「遊びの天才」たちが腑抜けにさせられているように思える。

知恵と技で遊びこなせる力がありながら、その出しどころを失ってしまい、全くもって宝の持ち腐れである。

第二に、子どものコミュニケーションの問題だ。子どもたちの集団遊びが薄れ始め、部屋に三人集まっても、一人遊びが三人いるだけだ。

テレビゲ-ムに熱中する子ども、漫画を読んでいたり、違うゲ-ム機で遊んでいる子どもなど、各自が自分の枠組みで楽しんでいる。川辺のキャンプ地でも家族旅行の車中でも、子どもたちは下をうつむき、ピコピコさせながらマシーンに向かう。

子どもたちに「個」の確立が叫ばれていながら、「“孤”」が備わってしまった。

そこで、期待をかけるのが「シニアの力」である。

私が館長を務める東京おもちゃ美術館には、様々な経歴を持つシニアが集っている。趣味・娯楽を嗜むために来るのではなく、第二の人生に備えた勉強のためだ。

遊びとおもちゃで子どもとの世代間交流や、子育て支援を目指す専門家「おもちゃコンサルタント」の資格認定講座で、腕を磨くシニア層も増えている。

おもちゃドクターとなって子どものおもちゃを修理するシニアも多い。木工おもちゃマイスターとなって、子どもに失われている手作り活動の普及に努めるシニアも続々と登場している。

もともとあったスキルを再活性し、地域で一肌脱ぎたいと思っているシニアは意外と多い。世間では老人大学や生涯学習が盛んだが、地域社会に羅針盤を向けた知恵と技の再生プランは、シニアならではの専売特許だ。

年輪を刻んできた身体には、多くの引き出しがある。だが、しまい忘れていたり、錆付いて開きづらくなっている人も多い。

シニアが自分自身の膨大に眠っているであろう「知恵」と「技」の掘り起しをする。そして、遊びの栄養失調になった子どもたちに勝負をかけてもらいたい。

子どもの応援団に天下りするシニアこそが、世の中にとって大きな財産となるはずだ。

著者
多田千尋
芸術教育研究所所長、東京おもちゃ美術館館長、高齢者アクティビティ開発センター代表 NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長。
1961年、東京都生まれ。明治大学法学部卒業後、モスクワ大学系属プーシキン大学に留学。現在、全国3000人を越える玩具の専門家「おもちゃコンサルタント」の養成と、高齢者福祉のQOLの向上を唱えた「アクティビティディレクター」の資格認定制をスタート。専門はアクティビティケア論、福祉文化論、世代間交流論で、早稲田大学など多くの大学で教鞭をとる。
4月には、新宿区と文化協定を結び、東京の四谷で閉校となった小学校に「東京おもちゃ美術館」を開設。中野には、遊びとアートのラボラトリー「アート・ラボ」を開設し、子どもアートスクール、子育て学校、街中子育てサロン、おもちゃショップなどを展開する。
芸術教育研究所
東京おもちゃ美術館
高齢者アクティビティ開発センター

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