保健師のビタミン

多世代社会のあそびの力、おもちゃの力

第7話遊びの天才に失礼のないおもちゃ

私が館長を務めている東京おもちゃ美術館では、おもちゃを様々な視点から考えている。

第一にコミュニケーションを豊かにしてくれるおもちゃを尊重する。そのおもちゃで遊ぶと黙っていることが苦痛となるようなものだ。

バランスの不安定さを楽しんだり、絵合わせ遊びを楽しむボードゲームやカードゲームは幼児向きのものがたくさんあるが、このようなおもちゃは会話を促す。

こうしたファミリーゲームは家族の宝になることは間違いない。また、おもちゃをコミュニケーショントイに進化させる遊びの工夫も必要だ。幼児が手に持って遊ぶ木の車もお母さんの背中やおじいちゃんのお腹で遊ぶと豊かな会話が生まれる。

一見、一人遊びの代表格に見られるジグソーパズルも家族全員でやってもらいたい。一人で黙々と作業に徹するのではなく、家族で遊ぶと世間話に花が咲く。

第二にインテリアトイを推奨している。日本で市販されている多くのおもちゃの中には、遊び終わったら片付けたくなるようなおもちゃが少なくない。要するに住空間の中で、視線から消したくなるようなおもちゃだ。

できれば、遊び終わったら、出窓やピアノ、下駄箱の上に、飾っておきたくなるようなおもちゃをお勧めしたい。おもちゃのデザイン性も問われてくるが、自らの住まいのセンスに合わせたおもちゃ選びは、きっと暮らしに彩を添えてくれる。

第三に、子どもの遊びに過干渉にならない面倒見の悪いおもちゃこそがグッド・トイだと思っている。少々誤解を招く表現であるが、おもちゃが子どもに接近するのではなく、子どもがおもちゃという道具に果敢にアプローチをすることによって楽しさが吹き上げてくるようなものだ。

積み木やブロックなどのクリエイティブトイが代表的であるが、子どもの自発的な活動によって、手の運動、指の運動を促すアクティビティトイも有力玩具となる。

これらの乳幼児期のおもちゃに共通していることは、ローテクノロジートイであり、遊びのカロリーが低いということだ。ハイテク玩具はいまや幼児期まで低年齢化してきており、刺激も強い高カロリーのおもちゃであることが多い。

0歳から6歳までの遊びの一流プレーヤー時代は面倒見がよすぎるハイテク玩具はあまり必要ではない。目や耳に飛び込んでくるような音や映像の過剰刺激の高カロリーおもちゃは、子どもたちを成人病にしてしまうようなものだ。

そして、どんなに一流のおもちゃメーカーが束になってもかなわないおもちゃがある。それは、何といっても草花や土や貝殻などの自然物であり、父親や母親の手や顔や声である。それらが、幼児期の子どもにとって、もっとも贅沢なおもちゃであることも知ってもらいたい。

シンプルで、スタンダードな物で、楽しさを創り出すことができる遊びの天才時期は、実はたった6年間しかない。だからこそ、この時代の遊びの天才たちに失礼のないようなおもちゃ選びを私たち大人たちが考えていかなければならない。

著者
多田千尋
芸術教育研究所所長、東京おもちゃ美術館館長、高齢者アクティビティ開発センター代表 NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長。
1961年、東京都生まれ。明治大学法学部卒業後、モスクワ大学系属プーシキン大学に留学。現在、全国3000人を越える玩具の専門家「おもちゃコン サルタント」の養成と、高齢者福祉のQOLの向上を唱えた「アクティビティディレクター」の資格認定制をスタート。専門はアクティビティケア論、福祉文化論、世代間交流論で、早稲田大学など多くの大学で教鞭をとる。
4月には、新宿区と文化協定を結び、東京の四谷で閉校となった小学校に「東京おもちゃ美術館」を開設。中野には、遊びとアートのラボラトリー「アート・ラボ」を開設し、子どもアートスクール、子育て学校、街中子育てサロン、おもちゃショップなどを展開する。
芸術教育研究所
東京おもちゃ美術館
高齢者アクティビティ開発センター

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