多世代社会のあそびの力、おもちゃの力
第8話子どもとお年寄りをつなぐ
「お母さんが赤ちゃんを抱っこして立ち寄りたくなる老人ホ-厶をつくろう」のかけ声のもと、東京おもちゃ美術館は、高齢者福祉施設や障害児施設の中におもちゃ美術館を開設していく運動を1990年より開始している。
南は鹿児島から北は岩手まで、12の施設の中に世界各国のおもちゃや絵本が常備され、地域の母子や保育園・幼稚園にとって気軽に通える風通しの良い環境になりつつある。
また地域のボランティアが、手作りおもちゃの指導をするおもちゃ工房や、おもちゃの修理をするおもちゃ病院も併設する計画をしていて、地域の婦人会や高校のボランティアクラブが子どもたちのサポーターになったり、かつてエンジニアや機械整備士として活躍した高齢者がおもちゃドクターとして名乗り出てきてくれている。
お年よりだけの特定年齢集団の空間を「おもちゃ」をキ-ワ-ドに異年齢集団にしていき、遊びを掘り起こす新しい試みになるかもしれない。
他にも、地域の中にありながら親しみを感じられない空間である障害児施設との交流も考えられる。本来、児童福祉政策に必要なのは、障害児を隔離・分断することではなく、社会とのつながりを深めていくことにあると思う。そのためのパイプ役としておもちゃ美術館はひとつのきっかけになるに違いない。地域に開かれた「コミュニケ-ションの文化拠点」として力を発揮してもらいたいと思っている。
戦後、急激に形成された少子高齢社会と生活スタイルの変化から起こった核家族化によって、子どもとお年寄りの関係は縁遠くなった。人生の年輪を積み重ねたお年寄りから子どもへの文化の伝承はなくなり、また、生命感あふれる子どものエネルギ-をお年寄りも享受することができなくなった。
一方、福祉の世界では逆の動きも起こりつつある。高齢者福祉施設と保育所の合築施設や、保育所内に高齢者の通所スペ-スである「ふれあいデイサ-ビス」機能があったりと、子どもと高齢者の距離が福祉領域においては急速に縮まりつつある。
おもちゃ美術館を設置した特別養護老人ホ-ムでは、「赤ちゃんはボランティアのVIP」と評している。それは世界のおもちゃで遊べることを聞きつけてきた母親が赤ちゃんを抱っこして連れてくるようになり、赤ちゃんとお年寄りとの交流がスタートしたからだ。
それ以来、入居者のお年寄りが変わったというのだ。第一に、ベッドから起き上がろうとすることが増えたらしい。いくら言っても起き上がろうとしなかったお年寄り達が、赤ちゃんの声を聞いて起き出してきた。そして、それまで能面のように無表情だったお年寄りが、ほっぺたをピンクに染めてにこにこ笑ったり「赤ちゃんを抱かせて」と語り始め、感情が戻ったようになるという。
挨拶をされる側、声を掛けられる側という一方通行だったコミュニケ-ションが、双方向性を持つようになることの意味は大きい。また、赤ちゃんに何かしてあげたくなるようで、あるおばあちゃんが寮母に、お金を渡して「あの子にちゃんちゃんこを買ってやってちょうだい」とお願いされたこともあったらしい。
される側の生活から、する側の生活に少しでも変わっていくことは気持ちの上でも生活の張りが違うはずだ。