藤本さんの講演旅行記

web版 講演旅行記-19 通算第37回
東京都葛飾区

2023-02-17

2020年3月に「web版 講演旅行記-18 通算第36回 群馬県沼田市・茨城県結城市」を書いて以来(結城市に伺ったのは2019年11月末)、本誌関連の講演は全くなかった。
近隣での講演はほんの少しあったものの、コロナ社会は、そういった事業をほとんど日本中から消し去った。
webでの講演は、私にはおそらくできない。プレゼンのソフトを使って、画面に映し出しながら、用意した原稿を読み上げるスタイルだったら、聴衆が聴いていようが眠っていようが関係なく、決めた通りに喋れば良いのだろうが、私は、大体のあらすじは考えておくけれど、あとは聴衆の反応を見ながらアドリブで喋っていくタイプなので、webの画面だけでは聴衆の反応がつかめなくて、どう話を進めたら良いのかわからなくなりそうなのだ。顔の表情以外に、全身から立ち昇る雰囲気というか、場の空気というか、そういったものを感じられないと何とも話しにくい。
目の前に聴衆がいないと喋りにくい噺家と同類だ。
だから、webでの―というご依頼はお受けできないと表明しちゃっているので、コロナ社会での講演依頼は、すっかりなくなっていた。

2022年8月、久しぶりに打診が来た。東京都葛飾区の金町保健センターのA保健師から、11月以降に思春期の講演会を―という連絡。 思春期は専門ではないが、できない事もない。そして、webではなく、リアルの会場なのだ。
それに、何よりも、そういった場に飢えているような感覚さえあって、すぐにお引き受けする方向で連絡し、実現したわけだ。
それにしても、自分でも不思議だったのだが、どうやら私は、講演が好きなようだ。過去にそう思った事はない。特にイヤではないし、変な緊張もしないから、頼まれたら行く。知らない土地の場合は半分(以上)、旅行気分。その程度の認識だった。
が、今回は東京都葛飾区。ほとんど行った記憶はないが、ワクワクするような知らない土地というほどではない。なのに、何だか、嬉しいような気分なのだ。久々に人前で喋れるのが嬉しい??
う~ん、まさかそんな風に思うとは我ながら意外であった。
8月末日、金町保健センターのAさんSさんの2人の保健師来室。打ち合わせである。コロナ以前だと、近隣からの依頼の場合、打ち合わせという事で一杯やりながら―という事も多かったが、今回はそんな事もなく、相談室でマジメにお話を伺った。2回シリーズで、1回目は医師が思春期の特性や病理を、2回目が私で、思春期の子を持つ親の心のケアについて話すという事になった。
予定日が12月1日なので、3か月も先。さらに、その頃にコロナがどうなっているかも見通せないため、それからしばらくは、あまり考えないまま、日が流れた。

11月になって、プログラムが完成。さて、日帰りの葛飾区だが、どうやって楽しもうかと、いつもの講演旅行気分になる。
葛飾と言えば、思い出すのは「フーテンの寅さん」と、寅さんの地元の帝釈天(たいしゃくてん)、「亀有公園前派出所」の、両津勘吉巡査長くらいしか、すぐに思い浮かばない。
地図で見ると、会場の金町保健センターは、帝釈天から歩ける距離で、さらに、亀有は隣駅。
その辺を観光する事に決定。当日を待つ。
12月1日。この日は最高気温が前日比-8度の予報。更に、朝のうちは雨というあいにくの天気だったが、午前中から葛飾区に向かう。都内に行くには、私の所からだと、まず池袋に出て、そこから山手線や地下鉄となるが、乗換案内ソフトは、千葉県を経由しろと言う。地図で見ると、なるほど、葛飾区は東京の北東に位置し、江戸川を挟んで千葉県だ。おとなしくソフトの指示に従って、武蔵野線で東に。松戸を経由して会場よりも一駅先の亀有に向かう。ちなみに講演は午後からだが、9時半には葛飾入りした。
亀有。いわずと知れた両さんの舞台だ。
南口の出口前に早速。

北口にも。

小雨が降ってきて百均を探して傘を買い、さらに散策。亀有公園に。
そこにももちろん、



交番はここにはなくて、駅前にあり、その横には―。

噂によると、交番に行って「あの、両さんは?」と尋ねると、「今、巡回に出ているよ」などと答えてくれるらしいが、オトナとして、やめておいた。
まだまだ居る。



う~ん、町のシンボルなのだろうな。「こちら葛飾区亀有公園前派出所」をもじったような診療所の電柱看板まであった。

再び、常磐線で一駅東に戻って、金町で下車。ここから歩いて会場に行けるが、まだまだ午前中。
JRの駅の近くに京成金町駅があるのでそこに向かう。
次の目的地は寅さんで有名な柴又の帝釈天。金町から歩いて行けるが京成線も滅多に乗る事がないので、一駅だけ乗車する。都内では珍しい単線の京成金町線。京成高砂⇔柴又⇔金町だけの短い線路だが、地元の足としても帝釈天参拝や観光客の足としても、貴重な線路のようだ。
柴又駅を出ると…。

駅に向かって旅立とうとする寅さんを、妹が見送っている構図か。
ま、しかし、よく似ている。



ところで、柴又に行ってこの像を見た事をある患者さんに話したら、
「寅さんの左足の親指が、パワースポットらしくて、みんなが撫でるんですって。それで、親指だけ、色が変わっているらしいですよ」
と。
写真を拡大してみた。

たしかに、そこだけが輝いている。日本人って…。

かわいい寅さんも、居た。

帝釈天の参道に入る。

 

急に寒い雨の参道は、人もまばら。おかげでのんびり歩けたが、話によると普段は相当の混雑になるらしい。
二天門と本堂。多くは明治以降に建てられたものらしい。

 

そして、この奥には、有料で入れる庭と彫刻を見られる所があって、入場する。

邃渓園(すいけいえん)。これは昭和40年に作られた日本庭園で、庭には立ち入ることができないが、周囲の回廊を散策しながら庭を眺める事ができる。その回廊の入り口。

 

紅葉がきれいだった。
最後の方にはサルが。

どうして、ここにいらっしゃるのかは、よくわからないままである。
更に、彫刻。庭の回廊にもいくつもの細かな彫刻はあったが、その後、本堂の奥の部分の彫刻が間近で見られるようになっていた。大正から昭和にかけて、法華経の中の話を当時の彫刻家たちが分担して彫ったらしい。

 

見事。立体的に彫り抜くって、どうやってやるんだろう?
帝釈天の裏手になる江戸川の「矢切の渡し」の方にも行ってみた。演歌になっていたりして有名な場所。橋ではなく渡し船で川を渡る所という事だが、平日だからか、それらしいものは見えなかった。参道に戻って、さて昼食。保健師さんお勧めの蕎麦屋を訪ねる。

暑がりの私でも、この日は寒くて寒くて。暖かい蕎麦なんて、何年ぶりだろう?

店内は寅さん関連で一杯だったし、メニューにも関連する名前のセットがあった。
観光は終わって、やっと会場に向かう。この時点で小雨の中、12,000歩くらい歩いている。
我ながら、何やってるんだろうと、苦笑い。
住宅街をのんびり歩いて、保健センターに到着。

テーマは『「思春期」の親のこころのケア』。いつものように、何となく終わった。終了後は、同区内の他の保健センターの保健師さんも来ていて、少しお喋り。葛飾は、こち亀と寅さんだけかと思ったら、南の方は「キャプテン翼」なのだそうだ。
ご時世もあって、懇親会もなく、そのまま帰路へ。総歩数16,000歩を超えた一日だった。
翌日、A保健師から御礼のメール。
一部をそのまま引用させていただく。

  • 昨日は有難うございました。
  • 先生のお話は参加者にはとても好評で、分かりやすくて面白くあっという間の2時間だったという感想が大半でした。
  • 他に、こじれても愛しているという気持ちを伝え、側にいる存在を感じてもらうことが子供の生きる力を支えていけると思った。
  • 子育てに向き合う気持ちが楽になった。
  • 見守る・寄り添う・話を聞くをひたすら心がけ、楽しい我が家を続ける。
  • 質疑応答の中で、はっとした事や共感出来たことがあったが、寄り添うことは大事だが難しいと思った。
  • 休息を心掛けたい、等の感想が寄せられました。

何だかねぇ┓(´―`)┏
アンケートの感想を抜粋して下さったのであろう。
が、いつも思うが、こういうのって、アテになるのだろうか? みんな、オトナだから、私が亀有駅前交番に両さんの事を尋ねるのを我慢したように、オトナとして、もっともらしく書いているだけなんじゃないかな。
そう思うと、ありがたいような、恥ずかしいような…。

次の講演は、3月に埼玉県ふじみ野市と決まっている。依頼が来るだけでもありがたいが、私の住居から会場まで10キロもない、いわば地元の範疇である。
はてさて、旅行記、どうしよう……。
ふじみ野市の皆さんには一切不満はないが、やっぱり、旅行記的には、遠いところが良いなぁ…。

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