藤本さんの講演旅行記

web版 講演旅行記-18 通算第36回
群馬県沼田市・茨城県結城市

2020-03-17

久しぶりの旅行記である。しかも、これから書こうとしているのは、だいぶ前の話だ。
皆さんは私の事を、2か月に一編ふざけたエッセイを書き、時々、あっちこっちでくだらない話をしているだけのヒマ人と思っているかもしれない。
でも、実は、それ以外にもいろいろやっているのだ。
エッセイの原稿料や講演料が1回何十万円というのだったらそれだけで生活できる。
が、そんなはずがあるわけもなく、ほとんど週休1日で、後は何かしら、動き回っているのだ。多動という意味ではない。仕事らしきコトをしているという意味だ。
特に年末から何かと忙しく、こんなに時間がたってしまった次第。だから、記憶があいまいだったり間違っていたりするかもしれない。何か気づいた方は、ご指摘下さいませ。

さて、2019年は、全部で10講演ほどで終わった。3年くらい前までは倍以上だった年もあったが、遠方の講演が一段落した感じがある。
泊りがけで出かけることもめっきり減った。まあ、次第に高齢化している身としては、助かるような気もするが、ちょっと寂しくもあるのが正直なところだ。
どうぞ、呼んでみようかなとお考えの方は、私の体が動くうちに、早めに声をかけて下さいませ。

7月末に奥州市に伺った後も地元での講演はあったが、本誌関連での講演は10月末に5年連続の群馬県沼田市(4回目は「web版講演旅行記-13」参照)まで、3か月飛ぶ。
今回は日帰り温泉にも入らず、気に入ったみそラーメン屋によって、道の駅でリンゴなどを買い込み、それからケアマネさんたち相手に「精神疾患の基礎知識と支援のポイント・関わり方」といった話をしてすぐに帰ってきたので、「旅行記」として書く事がない。
夏には近くの老神(おいがみ)温泉に個人的に一泊し、講演のついでに寄るにはちょっと遠かった「迦葉山 弥勒寺(かしょうざん みろくじ)」に寄り、人間よりもはるかに大きな天狗の面を見たりもしてきた。何回も訪れている事で身近に感じるようになって、気軽に訪ねられる場所になったわけだが、比較的近いという事も大きな要因だ。講演旅行の中で一番回数が多く身近に感じている岩手県岩泉町は、毎月でも通いたいくらいの気持ちだが、やはり遠いために、なかなか難しい。
というわけで、沼田市については、今回はお訪ねしたという事を記すにとどめる。

2019年11月末に伺ったのは、茨城県結城市。
茨城県の講演はこれが4回目。2016年の水戸市、筑西市についてはweb版講演旅行記-4、2017年のひたちなか市については、同-10に書いてある。
茨城からの依頼は他県にはない特徴がある。精神に関する講演を開きたい自治体が、まず「茨城県精神保健協会」に、おそらく講師を指名するなどして申請する。すると、協会から、この場合は私の所に連絡が来て、私が承諾すると、その後の具体的な話は自治体と私のやり取りとなる。で、講演料の一部と交通費が協会から支出され、自治体は負担軽減―という仕組みのようだ。
水戸市の講演はその協会主催の講演だったので、この仕組みが適用されたのは、筑西、ひたちなかに続いて、結城市が3回目となる。
結城市と言えば結城紬(ゆうきつむぎ)の里だな―という事だけは知っていたが、高価な紬に縁もなく、個人的に訪れた事はない。筑西市もひたちなか市も同様で講演以外にご縁はなかった。個人的にご縁がなかった所に伺うきっかけになるのが、講演旅行の面白さである。
今回、懇親会はないという事で、自由度の高い車での訪問にするか迷ったが、調べてみると車の方が面倒な様子。そして窓口になられたY保健師は小山(おやま)まで迎えに行けるとの事。小山は栃木県だが、結城は県境の地で近いらしい。地図で見ると小山のすぐ東が結城市。駅だと水戸線で2駅だが、本数が少ない。そこで、お言葉に甘える事とする。ちなみに、その東隣が3年前に伺った筑西市である。
まずは浦和まで出て、そこから快速で約50分。自由席グリーン車というのに乗る。グリーンというと贅沢な感じだが、そんなに高くないし、たった50分でも老体にはかなり楽なので、よく使う。
10:22小山着。講演は14時からなのだが、Yさんが街を案内してくださるというので、こんな時間に伺った次第。
改札を出る。待ち合わせの場所にそれらしき女性がいる。おっと、マスクをしていた! はずす。
で、私だとすぐに気づいてもらえた。「地域保健」の手配写真は、こういう意味では便利である。
駅の前には車でH係長。まずはその車で市役所の駐車場に向かう。
そこからは、3人で徒歩による街中探訪の始まり。

まず向かったのは「九尾(きゅうび)の狐」に関する伝承があるという安穏寺(あんのんじ)。

これが山門。残念ながら奥の本堂は工事中だった。
「九尾の狐」はご存じかな? 私は個人的にかなりの回数訪問している栃木県の那須にある「殺生石(せっしょうせき)」という所で、その名前を知った。
もとは中国の神獣らしいが、美女に化けて悪事を働く妖怪としての話があり、那須に残る伝承は、後者。
悪事を働き那須に逃げてきて、そこで討たれた狐は姿を変えて石になる。それが「殺生石」。
ところが石になってもその妖力は衰えず、毒を放って人々を苦しめた。今でもそこを訪れると、独特の景観と火山性ガスの硫黄臭が恐ろしげであるが、伝承ではこれが狐のせいになる。
その殺生石を何とかするべく立ち上がったのが源翁(玄翁)和尚(げんのうおしょう)。お経を唱えて一撃! 石は砕け散って狐は成仏。めでたしめでたし―という話。
ちなみに、ある種のカナヅチの事を「玄翁」と呼ぶのは、この故事によるらしい。
あれ、話が終わっちゃった。これじゃ、結城市も安穏寺も出てこない。事前に送って頂いた市の資料を拝見して「九尾の狐」の事を知った時には、まさに???という感じだった。
で、調べたところ、その源翁和尚、奈良時代創建のこのお寺の再興をした人なんだそうだ。というわけで、やっと、繋がった。結城に縁が深く、和尚が亡くなったのも結城らしい。

更に散策は続く。街中を歩くとこんな建物が。

「中澤商店見世蔵(みせぐら)」。蔵というのは普通、荷物を入れておく場所だが「見世蔵」というと、文字通り「見世=店」を兼ねているのだ。こういった建物があちらこちらに残っている。埼玉県川越市や栃木県栃木市なども、蔵造りで有名だが、まあ、似たような感じかな。
次に訪れたのは弘経寺(ぐぎょうじ)。

敷地に保育園が併設されていて、Yさんは、ここの出身だそうな。生粋の結城っ子なわけだ。
瓦を見ると三つ葉葵、徳川の紋だ。

結城家はもともと、このあたりの名家だが、徳川家康の次男、秀康が婿養子となったので、徳川家との関係が深い。
更に面白かったのが、この南側の門の瓦。

鬼瓦付近をアップにすると、

この左側、何に見えます? 私にはクジラが潮吹きをしているような造形に見えた。屋根屋の知り合いに尋ねてみたが、西の方の海に近い地域で、そういった瓦があるのを聞いたことがあるが、茨城の、内陸にどうしてあるのかはわからないと。
お城の、シャチホコって、知ってるでしょう。あれ、もとはシャチ。つまり水族館の芸で人気のシャチをモデルにしたような、想像上の魚。あれは火事になると水を噴き出して延焼を止めるっていう理由で付けられているのだが、これも、そういったお守り的な瓦なのかも。同道のお二人も知らなかったようだが、この瓦についてご存じの方は、ぜひ教えて欲しい。お願いします。

次に訪れたのは、近くの結城酒造。

突然の来訪なのに、快く、中を見せて頂いた。江戸時代の建物らしい。
新酒ができるとその合図で外に出す杉玉は、まだ中にある。

この地域は年明けに出すらしい。
瓶に酒を入れるシステム。

そしてこっちの奥に醸造施設がある。

天井の柱とか、随所に年代を感じる建物であった。
中庭の方には明治時代の煙突。

建物と共に登録有形文化財なのだそうだ。
酒飲みなので、醸造などについての知識は多少ある。だから、酒造の方と話すのは楽しい。ただ、Yさんにはよくわからなかったようで、そういったことを説明したり。
「ブラタモリ」みたい、と、誰かが言ったのを覚えている。が、タモリさんほどの博学ではない。

更に更に散策は続く。別の酒造もあったのだが、先ほどの酒造で珍しいのを1本買ってぶら下げている。それを持ったまま覗いては失礼なので、遠慮して素通りをする。
続いては、称名寺(しょうみょうじ)。本当に寺社が多い町だ。

結城家の初代のお墓もある由緒正しき寺。紅葉が入り混じって美しい姿であった。

そして、Yさんの友人がやっているという「喫茶カヂノキ」で昼食。

ん? これが喫茶店? と思った方も多いだろう。そう、この町に残る見世蔵のひとつを改装して、喫茶店にしているのだ。中もこんな感じ。

この部屋で食事を頂いた。他の部屋も見学できて、アート作品が展示してあったり、

昔のままかな、と思うような一角があったり。

沢山のお客さんが入っていたが、まだまだ発展途上のようで、中庭などもこれから整えていくらしい。Yさんにもかなり思い入れがあるようだ。町の若者たちが、こういった歴史を大切にするのは素晴らしい事だ。
食後にも「健田須賀神社(たけだすがじんじゃ)」に立ち寄る。

もともとは健田神社と須賀神社。明治になって合体したらしい。結城家の氏神。鳥居の額の文字は、幕末の剣豪かつ書家でもあった、山岡鉄舟の字だそうだ。

鉄舟については詳しくは知らないが、江戸城無血開城などに関わり、維新政府でも要職をこなした人物。茨城県参事(今でいう県知事に該当すると思う)をしていた事もあるので、その頃の字なのであろう。
そこから更に10分ほど歩いて、やっと会場の「結城市健康増進センター」に到着。

本日の散策の歩数、およそ9,000歩。
その後、いや、これが本来の訪問の目的なのだが、「結城市精神保健福祉市民講座」という事で、「こころの健康セルフケア講座~こころ生きいき過ごすコツ~」というお題で市民対象にお話しして、おしまい。まあ、笑いもとれたから、良かったかな。

ところで、講演前、センターの中に入ると、また、精神保健協会のIさんがいらしていた。講演料などの手続きのためなのだが、なんと、私の好きなヤギのチーズを土産に、わざわざ買ってきてくれたのだ!(事の顛末はweb版旅行記の4、通算第22回参照

水戸市立森林公園の中にある「森のシェーブル館」で売っているものだ、しかも、Iさんによれば、
「今年はヤギの出産が少なかったから、乳も多く取れなくて少ないんだって」
との事。
いやいや、ありがたい。
帰宅後、早速、

こんな風にして頂いた。ウィスキーにも合うし、ワインにも合う。

見知らぬ土地を散策して、チーズで終わった一日…、いや、ちょっとだけ仕事もした、秋の一日であった。

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