地域保健WEB連載

なな先生のことばの発達教室

第5回

保護者・養育者に寄り添った説明をするには―活用できる資料のご紹介―

前回の連載記事第4回「ことば掛けが少ない親御さん、どう助言したらよい?」に対して、「通っている療育先にも、こんなふうに説明してくれる言語聴覚士さんがいたらいいのに……!」とのご感想をSNSでお寄せいただきました。本来ならば喜ぶべきところかもしれませんが、私は「ぎくり」としてしまいました。なぜなら、私もまた、保護者への説明を苦手とする支援者の一人だからです。文章を書くときには、内容をゆっくり整理し、表現を吟味する余裕がありますし、時間を気にせずじっくりお読みいただけます。対面では、相手の理解度や心理的な状態に合わせて内容を組み立てて話す必要があり、臨機応変にやり取りする難しさがありますよね。
それから、説明があまり上手ではない上に、初めての人と話すのもそれほど得意ではありません。保護者の前に立つときにはいつも緊張してしまいます。この言い方は相手を不用意に傷つけてしまうかもしれない、分かりづらい表現を使ってしまったかもしれない、一度に多くをお伝えしすぎたかもしれない、じっくり話し合う時間を最後に残しておけばよかった、などなど、いつも反省でいっぱいです。ご相談のあとは、「あの場面では、こう言ったほうが良かったかもしれない」と一人で反省会をしています。正確で安心でき、今まさに必要なお話を、限られた時間のなかでお伝えできるようになりたいものです。
今回の連載では、どちらかといえばこのように苦手分野である「分かりやすく、かつ、寄り添った説明をする」を克服するための、私の実践や工夫を2つ、ご紹介したいと思います。

当事者・保護者の気持ちに寄り添うために、取りまく状況を知る

ひとつめは、困りごとを抱える人をより理解するために、当事者の書いたエッセイなどを読み、取りまく状況を知るということです。まだ子どもを育てたことがない、障害を抱える人が身近にいない、障害の当事者ではない……ので、悩みを抱える人の気持ちが分からない、という悩みをお持ちの方はいるでしょうか。私も、資格を取得して仕事を始めた頃、保護者の方の実際のお悩み・困りごとを掴み切れているのか、まったく自信が持てませんでした。現場では、授業や試験勉強で得た知識のみでは通用せず、手探りの日々。経験の長い先輩方がご相談者の悩みや困りごとに上手に寄り添っているように見え、その技が羨ましいと感じました。

しかし、経験を重ねた今でも、当事者やその保護者・養育者の気持ちは分からないと感じます。そもそも、人の気持ちは究極的にはその人自身にしか分かりません。経験者だから気持ちが分かり、寄り添った支援ができるという側面もあるかもしれませんが、支援者が世の中のすべての困りごとについて経験を積むことはできませんし、同じ経験をして同じ悩みを持つとは限りません。仕事を通してさまざまな方にお会いしていくにつれ、むしろ、「気持ちが分かる」を目指すことのほうが、支援者の思い上がりなのでは? と感じるようになりました。困っている人の気持ちが分からない、という前提に立ち、だからこそ、プロとして、お子さん方やその保護者を取りまく状況について少しでも多くのことを知りたい、そうした姿勢を持ち続けることが大事なのではと思うようになりました。
困難を抱える人をよく知るために日頃から取り組んでいるのは、当事者やその保護者、家族の方が書かれた手記やエッセイ、体験談を読んだり話を聞いたりすることです。仕事上はこちらが相談を受ける側なので、どうしても話を聞くばかりではいられません。それに、困りごとの渦のなかにいる方に、気持ちを聞き出すことが、ご負担になることもあります。そういったわけで、当時を振り返る視点で書かれている手記やエッセイは、学びが多く貴重な資料です。ひとつだけ例をあげるならば、地域保健の連載から書籍化された『東京保健師ものがたり』は、保健師さんの現場のリアルがぎゅっと詰まった貴重な一冊です。主人公は保健師さんなので、今回の話題のなかで指す「困りごとを抱える当事者」とは少し違いますが、保健師さんに向けた連載を持つ私にとっては、保健師さんという当事者を知る機会となりました。

仕事が忙しくてあまり本を読む時間が無い、たくさんの本を読むのがあまり得意ではない、という方におすすめなのは、コミックエッセイです。多くのコミック本が出版されていますので、ぜひお手に取ってみてください。
それから、動画投稿サイトを含め各種SNSは、当事者や保護者の声で溢れています。普段直接聞くことができない経験や思いを覗くことのできる場ですが、まさに"生の声"が書かれていることも多いので経験の浅い支援者の方にはプレッシャーが大きく、新人さんが育つには難しい時代だなと感じます。

説明資料を活用する

ふたつめは、説明の際に資料を活用するということです。保健師さんが働くのはさまざまな困りごとを抱えている現場でしょうから、お伝えすべきことをすべて頭の中に留めておくのは大変です。資料があると、説明する私たちにとっても話しやすいですし、聞く方にとっては耳だけではなく目からも情報をとらえることができ、理解しやすいです。あとから見返して、内容を思い出すこともできます。それから、お子さまのことをご相談される保護者は、さまざまな思いを抱え、揺れ動いています。口頭でお伝えすると、受け止められないタイミングもあるかもしれません。資料を参照することで、「わが子が」という話題から「一般的には」という話題にいったん視点を切り替え、相談支援が進んでいく場面もあるかもしれません。

資料を活用する上で気をつけたいこと

資料は心強い味方ですが、ツールはあくまでもツール。使い方には気をつけたい点があります。

◎診断がまだついていない段階では、資料の使い方に要注意
日本では、診断は医師がおこなうものと法律で定められています。また、想定していない資料を唐突に渡されると、保護者をびっくりさせてしまうかもしれません。専門家の目から見て気になる様子があるケースにおいても、まだ診断がついていない段階では、診断名の載っている資料をお渡しするタイミングではない場合があります。

◎内容について質問されたときに
これから紹介する資料はどれも分かりやすいものですが、中には馴染みのない内容もあるかもしれません。それから、資料に説明記載の無い内容について質問を受けることもあるかもしれません。日頃の研鑽が大切であることは前提として、その場で分からないときには分かる専門家を頼っていただいたり、他の相談機関につないでいただければと思います。「専門職」を冠して相談をお受けするということは、ご相談に来られる方の信頼を引き受けているということだと思います。その信頼を裏切らないためにも、答えられない質問をその場しのぎで答えてしまわない、という点は気を付けたいものです。私も日頃の臨床で反省することが多い場面の一つです。

◎地域で紹介できる機関についての情報を持っておく
地域で活用できる資源や情報は刻一刻と変化していくため、情報収集は大変かと思いますが、地域の他機関やおつなぎできる先の情報をお持ちいただき、ぜひお伝えいただければと思います。医療や福祉、行政の仕組みは入り組んでおり、一般の生活者には非常に分かりづらいものです。障害を持つお子さんの親御さんが、忙しい時間の合間を縫い、あちこち問い合わせてようやく必要な支援に辿りついた、というお話を伺うたびに、やるせない気持ちになります。

活用できる資料の紹介

ことばや発達に関する説明資料は既成のものが少なく、自作することもあります。今回は、市販品やインターネット上でダウンロード可能なものをご紹介します。

*情報はすべて2024年1月現在のものです。
*「*注」の隣の四角マークをクリックすると、資料が掲載されている外部のサイトが開きます。

〈ことば・発音について〉

保健師さんはご存じの方も多いかと思いますが、一般社団法人日本家族計画協会のECサイトJFPAオンラインショップで『ことばが伸びるじょうずな子育て』『「発音」がはっきりしないとき』などの冊子を購入することができます(*注1)。ネットのお店tobiracoで取り扱いがはじまり、一般の方でも1部ずつ購入することができます(*注2)

〈難聴・きこえについて〉

全日本ろうあ連盟ろう乳幼児等支援対策プロジェクトチームが『きこえない・きこえにくいお子さんを持つママ・パパへ』というパンフレットを発行しており、ウェブサイトからダウンロードし、印刷することができます(*注3)。当事者を中心とした任意団体である「きこいろ 片耳難聴のコミュニティ」が、片耳難聴(一側性難聴)の家族向け、学校向け、職場向けの資料をデータと印刷物で頒布しています(*注4)

〈ダウン症について〉

日本ダウン症協会が『この子とともに強く明るく―ダウン症があるお子さんをもたれたご両親のために―』などのダウン症miniブックを販売しています(*注5)

〈視覚・聴覚重複障害について〉

国立特別支援教育総合研究所が『視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろうの子どもたちの育ちと学びのため に ー教職員、保護者、関係するみなさまへー』という冊子をダウンロード配布しています(*注6)

〈発達障害について〉

厚生労働省が「発達障害ナビポータル」というサイトで『発達障害の理解のために』という印刷可能な資料を配布しています(*注7)。そのほか、発達障害(神経発達症)については各自治体単位でさまざまな啓発資料が作成されているので、調べてみてください。ただし、診断名や診断基準などの変化が特に大きい領域ですので、資料が編纂された年のご確認も併せておこなっていただければと思います。

〈吃音について〉

「発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト」が『幼児吃音臨床ガイドライン第1版』を公開し、その添付資料に一般向けの資料があります(*注8)。広島市言語・難聴児育成会を母体とする「きつおん親子カフェ」では、幼児期用と学齢期用の吃音リーフレットをデータと印刷物で頒布しています(*注9)

〈場面緘黙(かんもく)について〉

非営利の任意団体である「かんもくネット」が、子ども用と青年・成人用の場面緘黙リーフレットをデータと印刷物で頒布しています(*注10)

〈読み書き・学習について〉

練馬区社会福祉協議会練馬ボランティア・地域福祉推進センターが配布している『発達性読み書き障害早わかりガイド』というマンガをダウンロードすることができます(*注11)。そのほかに、読み書きや限局性学習症(SLD・LD)について、印刷・配布して説明できる説明資料は見つけられませんでしたが、支援団体のNPO法人EDGE(*注12)や当事者団体である「カラフルバード~CBLD~」(*注13)などがウェブ上に情報をまとめています。

〈外国につながりを持つ、日本語が第一言語(母語)ではない方に向けて〉

国立障害者リハビリテーションセンターが、Webサイトで「発達障害に関する外国人保護者向けパンフレット」を22か国語で配布しています(*注14)
各自治体や地域で取り組みがあるかと思いますが、外国の人が多く暮らす地域とそうではない地域で差があるという話も聞きます。いくつか資料配布の取り組みの一例を挙げると、愛知県公式Webサイト「ネットあいち」では、『母語教育サポートブック『KOTOBA』-家庭/コミュニティで育てる子どもの母語-』(*注15)『あいち多文化子育てブック~あいちで子育てする外国人のみなさまへ~』 (*注16) という外国人保護者に向けた子育て支援の情報冊子を6か国語で頒布しています。また、かながわ国際交流財団が「外国人住民のための子育て支援サイト」 (*注17) にて、子育て支援チャートなど複数の資料を10か国語とやさしい日本語でダウンロード配布しています。
日本国内で外国の方に向けた資料が豊富に手に入るわけではありませんが、「やさしい日本語」という取り組み・キャンペーンがあります。文化庁が配布している資料に、『在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン』『別冊 やさしい日本語書き換え例』などがあります(*注18)。外国につながりを持ち、日本で子育てをしている方は年々増加傾向にあります。母子保健分野、医療、発達支援にも、外国の方には分かりづらい用語がたくさんあります。こちらを参考に、お手持ちの資料をアレンジしたり、その場で言い換えたりすることから始められたらと思います。


ここまで、一般の方向けに作成され、直接手渡しで配布できるものを中心にご紹介しました。ただし、個別の疾患ごとの資料などのすべては紹介しきれていません。また、インターネットや各地域で活動している団体が、良い資料を配布してくださっているのにあまり広く知られていないということもあります。新たにこの分野でお仕事をされる方のためにも、ぜひご紹介し合っていただければと思います。
また、保健師さんはインターネット環境が無い場所でのお仕事も多いかと思いますし、手に入る情報は玉石混淆ではありますが、動画や音声の資料も日進月歩で充実してきていますので、ぜひ取り入れていただけたらと思います。
というのも、言語聴覚士である私が日頃接するコミュニケーションの障害を持つ方は、聞く・話す・読む・書くなどの、理解する・伝える手段に何らかの苦手や困難がある方々です。それぞれの方に合った、分かりやすい手段・方法はさまざまです。聞いて理解する方、文字を読んで理解する方、図解や絵があることで理解する方、文章よりもマンガや動画のほうが理解しやすい方、さまざまな手段の組み合わせにより理解する方、多様でいらっしゃいます。お子さんの相談の多くは、まずは保護者に向けて説明をしていくことになりますが、それぞれが持つ個別の「理解しやすい手段・方法」をお持ちなのは、保護者においても同じだと思います。それぞれの方のそれぞれの理解のしやすさに合わせた、分かりやすく、伝えやすい方法を、昨日より今日、今日より明日で、検討していけたらと思います。


注 参考サイト一覧
  1. JFPA®オンラインショップ
    https://jfpaonlineshop.jp/
     
  2. tobiraco(トビラコ)
    https://tobiraco.co.jp/item/kotoba_sassi/
     
  3. 全日本ろうあ連盟 ろう乳幼児等支援対策プロジェクトチーム 
    きこえないお子さんが生まれた保護者に配するパンフレット
    『きこえない・きこえにくいお子さんを持つママ・パパへ』を発行しました
    https://www.jfd.or.jp/2021/08/25/pid22491
     
  4. 当事者を中心とした任意団体である「きこいろ 片耳難聴のコミュニティ」  
    https://kikoiro.com/leaflet-kikoiro/
     
  5. 公益財団法人日本ダウン症協会
    ダウン症miniブックシリーズ
    『この子とともに強く明るく―ダウン症があるお子さんをもたれたご両親のために―』
    https://www.jdss.or.jp/project/03.html
     
  6. 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所
    冊子「視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろうの子どもたちの育ちと学びのために ー教職員、保護者、関係するみなさまへー」を作成しました
    https://www.nise.go.jp/nc/news/2021/0312
     
  7. 発達障害ナビポータル
    啓発用パンフレット『発達障害の理解のために』
    https://hattatsu.go.jp/notice/notice202108-01/
     
  8. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト
    『幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)』と添付資料の公開
    http://kitsuon-kenkyu.umin.jp/guideline/index.html
     
  9. きつおん親子カフェ
    幼児期用/学齢期・思春期用 吃音リーフレット
    https://kitsuonoyakokafe.wordpress.com/childrenleaflet/
     
  10. 10. かんもくネット
    場面緘黙リーフレット
    https://www.kanmoku.org/leaflet
     
  11. 11. 練馬区社会福祉協議会 練馬ボランティア・地域福祉推進センター
    マンガ『発達性読み書き障害早わかりガイド』
    https://www.neri-shakyo.com/publication
     
  12. 12. NPO法人EDGE
    https://www.npo-edge.jp/
     
  13. 13. カラフルバード~CBLD~
    https://sld-colorfulbird.com/
     
  14. 14. 国立障害者リハビリテーションセンター
    発達障害に関する外国人保護者向けパンフレット
    http://www.rehab.go.jp/ddis/world/brochure/
     
  15. 15. 愛知県公式Webサイト「ネットあいち」
    母語教育サポートブック『KOTOBA』-家庭/コミュニティで育てる子どもの母語-を作成しました
    https://www.pref.aichi.jp/soshiki/tabunka/0000060441.html
     
  16. 16. 愛知県公式Webサイト「ネットあいち」
    『あいち多文化子育てブック~あいちで子育てする外国人のみなさまへ~』を作成しました
    https://www.pref.aichi.jp/soshiki/tabunka/kosodate-book.html
     
  17. 17. 公益財団法人かながわ国際交流財団
    外国人住民のための子育て支援サイト
    https://www.kifjp.org/child/
     
  18. 18. 文化庁 
    『在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインほか』
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/92484001.html
著者
寺田奈々
ことばの相談室ことり
言語聴覚士

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